交通事故コラム

過失割合 裁判例紹介 信号機のある十字路交差点(100対0)

交通事故 交差点 過失割合 出会い頭 100 0

〈事案〉

信号機のある十字路交差点での衝突事故

Y車両

東西に走る片側3車線の環七通りの右折専用レーン(第3車線)を走行して、青信号で本件交差点に進入して右折導流路の停止位置で停止して、対向直進車の通過待ちをした後、赤信号で右折を開始した。

X車両

南北に走る片側1車線の道路を時速40kmで走行して、本件交差点に差し掛かり、対面の信号が青信号であったことから、そのまま本件交差点に進入したところ、右折進行してきたY車両と衝突した。

〈裁判所の判断〉

東京地判平成24年3月13日

結論

過失割合 X0 Y100

理由

Yの過失100

 Yは、本件交差点を右折進行するに当たり、十分な安全確認をすべき注意義務があるのにこれを怠り、本件交差道路の左方の安全確認をしないで本件交差点を右折進行した過失があるというべきであるから、民法709条に基づき、Xに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

Xの過失0

 他方、Xは、信号機による交通整理が行われている本件交差点を対面信号機の青色表示に従って直進しようとしていたのであるから、基本的に、対面信号機が赤色を表示している環七通りから本件交差点に進入して来る車両があることを予想して運転すべき注意義務はなく、Y車が右折導流路の停止位置から発進した直後に同車とX車が接触していることも併せて考慮すると、Xには過失はないというべきである。従って、Xには、民法709条に基づく損害賠償責任は認められない。

右折導流路で停止して、右折開始時に赤信号であった場合

 以上に対し、Yは、Y車は、青信号で本件交差点に進入して右折導流路の停止位置で停止し、対向直進車の通過待ちをした後、右折を開始する際に赤信号になっていたにすぎないのであって、赤信号で本件交差点に進入したわけではないとして、Y車が本件交差点手前の停止線を通過した際の対面信号表示が青色であったことから、その後に対面信号表示が赤色になっても、Y車が右折導流路の停止位置から右折を開始することが許されるかのように主張する。
 そこで検討すると、道路交通法7条は、道路を進行する車両は、信号機の表示する信号等に従わなければならないとし、道路交通法施行令2条は、信号機の表示する赤色の灯火の意味について、「車両等は、停止位置を超えて進行してはならないこと」とし、「停止位置」について、同条の備考において、「道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前」としている。そうすると、上記で認定したとおり、Y車が環七通りの停止線を越えた際の対面信号機の信号表示が赤色であっても、Yが道路交通法7条の信号機の信号等に従う義務に違反したとは認められないことになる。

本件の信号表示及び具体的交通状況の下ではYは右折を開始すべきでなかったこと

 しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、時速40㎞(秒速11.1㎞)で走行していたX車が、Xにおいて本件交差道路の対面信号機が青色を表示しているのを最初に確認した郵便局付近から本件交差点中央(Y車は、右折導流路の停止位置から右折を開始してから1、2秒後にX車と衝突したことから、衝突地点は、本件交差点中央又は本件交差点中央よりやや北寄りであると推認される。)に至るまでは少なくとも2秒を要するものと認められることから、Y車の右折開始時点(衝突の1、2秒前の時点)では、環七通り側の信号表示は赤色であり、本件交差道路側の信号表示は既に青色であったものと認められる。そうすると、Y車が右折を開始した時点では、X車を含む本件交差道路の車両が対面青信号に従って本件交差点に進入しようとしていたのであるから、Y車が右折を開始すれば、X車等の本件交差道路の交通の安全を著しく害することは明らかである上、本件交差点の右折導流路は本件交差点内にほとんど入り込んでおらず、Y車が右折導流路にそのまま停止していたとしても、Y車や本件交差道路の車両の安全が妨げられることはなかったことが認められる。以上のような信号表示及び具体的交通状況の下では、Yとしては、右折導流路の停止位置から右折を開始するべきではなかったということができる。それにもかかわらず、Yは、右折を開始し、Y車をX車に衝突させるに至ったのであるから、道路交通法7条所定の義務には違反していないことを踏まえても、Yには上記で認定した過失があるというべきである。そして、上記のとおり、Xには過失はないから、本件事故はYの一方的過失に基づく事故というべきである。

〈弁護士による解説〉

 本件は、信号機の設置された十字路交差点における、赤色信号で侵入した車両(Y)と青色信号で侵入した車両(X)との出会い頭の衝突事故のケースです。
 一見してYの一方的過失がある事故ですが、Yは、本件交差点に進入して停止線を越えた時点では青色信号であり、右折導流路で停止して対向直進車の通過待ちをした後右折を開始した時点で赤色信号になったに過ぎないとして、道路交通法7条の信号機等に従う義務の違反はないと主張しました。
 この点について、裁判所は、当時の具体的交通状況に言及し、Yが右折を開始した時点で、既にX車を含む車両らが対面信号機の青色表示に従って交差点に進入しようとしていたこと、Yが停車していた右折導流路は交差点内にほとんど入り込んでおらず、Y車が右折せずに停車していたとしてもY車や他の車両の安全が妨げられることはなかったとして、Y車は右折を開始すべきでなかったと判断し、Yの主張を退けました。
 右折導流路が交差点内深くに入り込んで、右折せずに停車していたのでは衝突の危険があるような場合はともかく、本件のごとく停車していても危険が無い場合にまで右折を認めることは相当でありませんから、裁判所の判断は妥当といえるでしょう。