交通事故コラム

高次脳機能障害について高齢者特有の問題点

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〈質問〉高齢者の交通事故による高次脳機能障害について認知症が問題となる?

交通事故で高次脳機能障害が疑われる被害者が高齢の場合、加齢による認知症の影響が問題となることはあるのでしょうか?加齢による認知症を理由に事故との因果関係が否定されるケースはありますか?

〈回答〉事故前からの認知症を理由に素因減額されたり、高次脳機能障害が原因ではないとして事故との因果関係が否定されることがある。

高齢の被害者に認知や行動に関する障害がみられる場合に、それが高次脳機能障害によるものなのか認知症によるものなのかが問題となる場合があります。
事故前からの認知症が認められる場合には、事故後の障害に認知症が寄与しているとして素因減額されたり、そもそも高次脳機能障害自体が否定される場合もあります。

〈弁護士による解説〉

高次脳機能障害と認知症の異同

高齢者は事故と関係なく加齢により認知症を発症する場合があるため、高齢者が交通事故で高次脳機能障害が疑われる場合に、認知症との関係が問題となります。

症状が類似

高次脳機能障害も認知症も、認知や行動に障害がみられる(記憶障害、実行機能障害、病識欠如など)ことから、症状が類似しています。

症状経過が異なる

もっとも、一般的に高次脳機能障害の場合には症状は経時的に改善していくと考えられている一方で、認知症は時間と共に症状が進行していき、不可逆的であると考えられています。

画像所見

また、高次脳機能障害の場合には、脳挫傷などの局在性脳損傷の存在や全般的な脳室の拡大・脳萎縮がCTやMRI画像から認められる点が特徴的です。
以上のように、高次脳機能障害と認知症は、その症状が類似していることから、高齢者が認知や行動の障害を発症した場合には、加齢による認知症の影響が疑われるため、認知症ではなく事故による高次脳機能障害と認められるためには、事故後の症状の改善の有無や画像所見の有無が重要となります。

認知症の影響が否定されたケース

高次脳機能障害の診断を受けた被害者に対して、加害者が、被害者は事故の約15年前から徘徊を繰り返すなどして認知症を発症していたと主張して争いとなった事例で、裁判所は、被害者が「事故前に認知症と診断された事実はなく」、事故後に「硬膜下血腫、脳挫傷等により、左側頭葉を中心とする左大脳半球に梗塞を生じ、経時的に萎縮も確認され」ており「失語、記憶障害等の高次脳機能障害の後遺障害は、その損傷部位と整合性がある」として、また最近の症状の進行については、「年齢や脳萎縮の状況等にかんがみ、加齢に伴う認知症の進行が影響している可能性は否定できないとしても、」「高次脳機能障害による後遺障害の症状については、本件事故と相当因果関係ある後遺障害と認めることが相当である。」として、認知症の影響を否定しました(大阪地判平成21年2月16日交民42巻1号154頁)。

認知症の影響を考慮して素因減額されたケース

高次脳機能障害の被害者について、事故前から多発性脳梗塞の存在が認められた事例で、裁判所は、受傷時の脳挫傷等の画像所見などから事故による高次脳機能障害の発生を認めながら、事故前から多発性脳梗塞が被害者に存在しており、その症状が事故後に悪化していること、事故後に認知症状やパーキンソン症状が出現していることを認めて、被害者の「素因ないし事故後に生じた症状が・・・後遺障害の程度に相当程度寄与している」として、3割の素因減額を認めています(神戸地判平成23年5月16日交民44巻3号588頁)。

認知症の影響を認めて事故と障害の因果関係が否定されたケース

被害者に外傷性の脳損傷を示す画像所見がなく、事故前に認知症の症状があったことが認められた被害者について、事故後の被害者の認知や行動の障害は高次脳機能障害による症状ではないと判断された裁判例があります(大阪地判平成27年3月9日自保ジャーナル1946号105頁)。

以上のように、裁判例では、事故前の認知症が認められる場合には、素因減額されたり、事故後の障害と事故との因果関係が否定されるケースがみられます。

症状固定時期の考え方

高次脳機能障害は一般的に、脳損傷発症時が最も重篤で、時間の経過とともに改善していくものと考えられていますが、高齢者の場合、事故後に加齢によって認知機能の障害が進行することが考えられるため、どの時点までの症状を高次脳機能障害による症状として後遺障害等級評価を行うべきかが問題となります。

自賠責保険の考え方

自賠責保険の障害認定手続においては、症状固定後一定期間が経過し、症状が安定した時点での障害程度をもって障害等級認定を行うものとする、とされており、その後時間が経過する過程で症状が悪化した場合については、交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因となっていることが明白でない限り、上位等級への認定変更の対象とはしないという取り扱いが合理的である、とされています(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)2018年5月31日」)。

裁判例

被害者が症状固定後に症状が悪化したとして、裁判の口頭弁論終結時までの症状を考慮すべきであると主張したのに対し、裁判所は上記自賠責保険の考え方と同様の考え方で被害者の主張を斥けました(東京地判平成22年2月9日交民43巻1号123頁)。

まとめ

高齢の被害者の場合、事故前から加齢による認知症がある場合も少なくありません。認知症と高次脳機能障害は症状に類似性がありますが、経時的な症状の回復・悪化の違いや画像所見などから高次脳機能障害が認められれば、素因減額される可能性はありますが,事故による後遺障害として加害者に損害賠償請求できます。高次脳機能障害でお困りの方は一度弁護士にご相談ください。