交通事故コラム

高次脳機能障害の将来介護費用は請求できる?

後遺障害 高次脳機能障害 将来介護費用

〈質問〉高次脳機能障害で将来の介護費用はどこまで相手に請求できる?

 交通事故で高次脳機能障害となった場合、将来見込まれる介護費用は相手に請求できますか?職業付添人に介護を依頼する場合の費用は請求できますか?

〈回答〉将来介護の必要性が認められれば相手に請求できる。職業付添人の必要性は現在の介護状態が重視される傾向にある。

将来の介護費用は、その必要性が認められる限りで相手に請求できます。裁判例では、後遺障害等級3級以上であれば大半の事例で必要性が認められており、5級以下の場合は個別具体的な事情に応じて判断が分かれているようです。
 職業付添人の費用も、その必要性が認められる限りで相手に請求できます。裁判例では、現に職業付添人による介護を受けている場合に、それを重視して必要性を認める傾向にありますが、現に職業付添人による介護を受けておらず近親者が介護している場合でも、近親者の介護能力などから将来的に職業付添人が必要と認められる場合もあります。
 認められる介護費の金額は、職業付添人の場合は数千円~1万5000円程度、近親者による介護の場合は日額数百円~8000円程度で、個別具体的な事情によります。

〈弁護士による解説〉

将来介護費用

 交通事故で高次脳機能障害を負った場合、将来にわたって日常生活での介護が必要となります。
 そのため、将来にわたっての介護費用を交通事故による損害として相手に請求できないかが問題となります。
 将来介護費用が交通事故による損害として認められるためには、将来介護の必要性が認められる必要があります。
 将来介護の必要性の有無は、被害者の障害の程度や日常生活における支障などの個別具体的な事情を考慮して判断されます。

後遺障害等級との関係

 高次脳機能障害が自賠責保険の後遺障害等級で別表第1第1級1号(「常に介護を要するもの」)や2級1号(「随時介護を要するもの」)に該当する場合は、介護の必要性が等級判断の要素になっており、裁判でも必要性が認められることが大半でしょう。
 3級以下の場合は、介護の必要性が等級判断の要素になっていないところ、被害者の事情(日常生活の基本動作がどの程度できるか、金銭管理ができるか、通勤通学が一人でできるかなど)や、両親などの近親者の事情(介護の主体、内容、必要な時間、肉体的・精神的負担の程度など)を踏まえて個別具体的に介護の必要性が判断されます。

職業付添人による介護

 在宅介護の方法は、近親者が介護を行う方法と、職業付添人(看護師や介護福祉士などの資格をもった介護のプロ)に介護を依頼する方法が考えられます。
 職業付添人に介護を依頼すると、当然介護費用の負担が生じ,その金額は近親者による介護の場合よりも高額となるのが通常であることから、その費用を相手に請求できないかが問題となります。
 職業付添人の費用は、職業付添人に依頼する必要性が認められる場合に限って、事故による損害として認められます。
 裁判例では、これまでどのような介護が行われてきたかを重視して職業付添人の必要性の有無が判断される傾向にあるようです。
 例えば、被害者が現に介護施設に通所し、またヘルパーにも依頼している場合に、今後もその費用がかかると想定して、現在の介護状態を基準に将来介護費用を認定している裁判例があります(大阪地判平成26年3月20日交民47巻2号374頁)。
 これに対して、現に近親者による介護を受けている場合には、将来的にも近親者による介護が可能(職業付添人による介護を要しない)と判断される場合が多いようです。
 もっとも、実際に介護を行っている近親者の介護能力や就業状況など介護者の事情に着目して、将来的に職業付添人に依頼する必要があると認められる場合もあります。
 裁判例では、介護者の年齢を67歳で区切って、67歳までは近親者による介護が可能であるとして、それ以降については職業付添人による介護の必要性を認めているものもあります(さいたま地判平成29年7月25日交民50巻4号962頁)。

将来介護費用の金額

 一般的には、後遺障害等級が重度であるほど、将来介護費用として認められる金額も高額となりますが、後遺障害等級と将来介護費用の金額は必ずしも比例するものではなく、被害者の介護状態や介護者の介護能力等の個別具体的な事情に応じて判断されます。

近親者介護の場合

 裁判例の傾向としては、近親者看護の場合、高次脳機能障害2級の場合で日額5000円~8000円程度(名古屋地判平成27年1月14日交民48巻1号35頁、神戸地判平成28年1月28日交民49巻1号94頁)、3級の場合で日額4000円程度(東京地裁平成29年3月16日交民50巻6号1609頁)、5級の場合で日額1000円~3000円程度(名古屋地判平成26年6月27日交民47巻3号847頁、京都地判平成27年5月18日交民48巻3号570頁)、7級の場合で月額15、000円(日額500円)(名古屋地判平成26年11月20日自保ジャーナル1938号6頁)が認められています。

職業付添人の場合

 職業付添人の費用については、現に職業付添人に依頼している場合、実際に要する費用がある程度わかるものの、将来の介護保険制度や介護サービスの金額がどのようになるかは予測が困難であることから、裁判例では実費相当額ではなく定額で認められることが多いようです。
 高次脳機能障害2級の場合で日額8000円~1万5000円程度(神戸地判平成28年1月28日交民49巻1号94頁、東京地判平成23年1月20日交民44巻1号32頁)、5級の場合で日額7000円程度(名古屋地判平成25年3月12日自保ジャーナル1895号30頁)が認められています。

まとめ

 将来介護費用は、被害者の介護状況や近親者の介護能力など個別具体的な事情に応じて認められます。相手方への請求や裁判の時点で近親者が介護できている場合でも、その後近親者が高齢となって将来的に職業付添人の必要性が生じる場合もありますから、先を見越して損害額を計算する必要があります。交通事故で将来の介護費用についてお困りの方は一度弁護士にご相談ください。