交通事故コラム

過失相殺や過失割合ってなに?

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〈質問〉交通事故の過失相殺、過失割合とは?

交通事故で「過失相殺」とか「過失割合」という言葉を聞きますが、どういう意味でしょうか?割合はどのようにして決まるのでしょうか?

〈回答〉過失相殺とは、事故態様に応じて公平の理念から被害者の損害賠償額を減額する制度です。

過失相殺は、被害者に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合に、公平の理念から損害賠償額を減額する制度です。過失相殺の割合は、当事者間で話がまとまらない場合は裁判所が判断します。事故の類型ごとに事故当事者の過失相殺割合が記載された基準表が存在し、実務ではそれに基づいて過失割合を決めることが一般的です。

〈弁護士による解説〉

過失とは?

過失とは、「・・・すべきだったのにしなかった」という注意義務違反のことです。車の運転は、安全に行われなければ他人に重大な損害を生じさせることから、法律で車両の運転者に様々な注意義務を課しています。例えば、道路交通法71条5号の5では走行中のスマートフォン等の操作が禁止されており、運転者がこれを怠って衝突事故を起こせば、その運転者には過失があるということになります。
車の運転以外にも、他人に損害を与えないようにするため、法律は私たちに様々な注意義務を課しています。そして、注意義務に違反して他人に損害が生じれば、不法行為責任(民法709条)を問われてその損害を賠償しなければなりません。

過失相殺とは?

過失相殺は、被害者に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合に、損害賠償額を減額する制度です。過失相殺の有無や減額の程度は裁判所の裁量に委ねられています。

民法722条2項
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」

過失相殺は、自らの過失に基づいて生じた損害を第三者に転嫁すべきではないという公平の理念から導かれる制度で、損害が発生したその時はもちろん、損害が発生した後もその損害をできる限り拡大しないように努めるべきであるという趣旨を含んでいます。
そのため、被害者が事故後に治療に努めなかったことで症状が悪化して損害が拡大したような場合には、過失相殺によって賠償額が減額されることがあります。
また、過失相殺は被害者加害者双方の公平を図る制度ですので、被害者に落ち度があっても加害者側の過失があまりに大きい場合には過失相殺しないこともあります。
例えば、横断歩道を歩行していた歩行者が車とぶつかった事故の場合、歩行者にも左右を確認しない不注意がありますが、車は横断歩道直前で停止できる速度で進行しなければならず、歩行者がいるときは横断歩道の直前で停止しなければならない(道交法38条1項)とされており、法律で横断歩道の歩行者に絶対的な優先権が認められていますから、この場合は原則として過失相殺されません。
これに対して、歩行者が車道を横断して車と衝突した場合、横断歩道のように歩行者に絶対的な優先権があるわけではなく、歩行者は自らの安全を守るための注意を怠った過失を理由に、過失相殺によって損害賠償額が減額されます。

過失相殺の「過失」

過失相殺の「過失」は、上記の不法行為責任を問われる際の「過失」すなわち、他人に損害を与えないようにする注意義務の違反とは異なり、被害者自身が自らの安全を守るための不注意を問題にするものです。同じ「過失」という言葉でも、加害者側の過失と被害者側の過失とでは、問題とするところが異なるということです。

最判昭49年6月28日民集28巻5号666頁
「民法722条の2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し、積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣旨を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき公平の見地から損害発生について被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題にすぎない」

過失相殺の基準

過失相殺をするか否かや、どの程度過失相殺をするかは裁判所の裁量に委ねられており、個々の事件ごとに裁判所が、その事件の被害者の過失は何割、という形で決めるのが基本です。
しかし、交通事故は非常に件数が多く、また同じ態様の事故が多発するため、事故態様が同じであるのに、裁判官によって過失相殺率が異なるということが起こります。それでは法的安定性を欠きますし、事故解決の予測可能性の観点からも望ましくありません。
そこで、交通事故訴訟に携わる裁判官らによって、事故類型ごとに図と共に事故当事者の過失相殺率が記載された基準表が策定され、現在、裁判実務や保険実務ではこの基準表に基づいて過失相殺率が判断されています。
この基準表は、全訂5版が別冊判例タイムズ38号に掲載されており、一般の方でも見ることができます。
例えば、車同士の出会いがしらの事故で、一方に一時停止の規制があった場合(一方がそれを守らず一時停止せずに交差点に進入した)、互いに同程度の速度であれば、一時停止の規制がない方が2割の過失、一時停止の規制がある方が8割の過失になるとされています(別冊判例タイムズ38号全訂5版221頁)。
このように、交通事故では事故類型ごとに過失相殺率を記載した基準表が存在し、裁判においても基本的にこの基準表が用いられることから、事故の態様に当事者間で争いがなければ、基準表に基づいて自ずと過失相殺率も定まることになります。
もっとも、基準表はあくまで基準に過ぎず、事故の細かい状況などから、裁判では基準表と異なる過失相殺率が認定されることもままあります。基準表を絶対視することはできないということです。

過失相殺の方法

過失相殺の方法は、治療費や慰謝料などの各損害費目を合計して総損害額を計算し、総損害額から過失相殺して最終的な賠償額を算定するのが一般的です。
例えば、被害者の過失が2割で、治療費100万、傷害慰謝料100万の合計200万円が被害者の総損害額の場合、総損害額200万円から過失2割分の40万円を差し引いた160万円が損害賠償額として加害者に請求できる金額となります。

まとめ

過失相殺は、損害額の合計から何割という形で減額されますので、1割異なるだけでも金額としては非常に大きな違いが生じます。そのため、過失1割の有無をめぐって争いとなることも少なくありません。また、過失相殺率の基準表は保険会社においても示談交渉の材料として利用されているところ、保険会社の担当者によっては、誤った理解に基づいて基準表を利用しているケースも少なからず見受けられます。
相手の保険会社から基準表を根拠にしていると言われて過失相殺率を提示されても、それを鵜呑みにすることなく、まずは弁護士に相談されて適正な過失相殺率のアドバイスを受けられることをお勧めします。