交通事故コラム

台風でマイカーが壊れてしまった!

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 このコラムを書いている令和2年9月4日、台風10号(ハイシェン)が日本列島に非常に強い勢力で接近しており、最大瞬間風速は60メートルとも言われ、観測史上最大クラスとのことです。
 未だ台風の位置は日本列島から遠く離れているにも関わらず、事務所(名古屋市丸の内)の窓ガラスに雨風が吹き付けています。
 皆様におかれましては、台風への厳重な警戒をお願い致します。
 
 さて、今回は、台風で自動車が損害を受けたケースを想定して、被害に遭われた方が損害を補填する手段についてご説明します。

車両保険を使う

 台風によって自動車に生じた損害を補填するのに最も直截的な方法は「車両保険」の利用です。
 
 「車両保険」・・・衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮その他の偶然の事故によって被保険自動車に損害が生じたときに保険金が支払われる保険。

 風で飛ばされてきた物にあたって車が壊れた場合はもちろん、大雨で車が水没した場合や土砂崩れに巻き込まれた場合でも車両保険が利用できます。

 車両保険で支払われる保険金の額は、車の損害額から自己負担額(免責金額)を差し引いた金額です。
 
 車の損害額は、修理に要する費用ですが、契約で定められた保険金額(支払限度額)を修理費用が上回る場合には、いわゆる「全損」扱いとして、契約で定められた保険金額が支払われ、それを超える分の修理費用は保険から支払われません。
 
 例えば、修理費用が30万円で、契約で定められた保険金額が100万円であれば、30万円が保険金として支払われます。
 これに対して、修理費用が150万円で、契約で定められた保険金額が100万円の場合、100万円が保険金として支払われ、修理に必要な残りの50万円は保険からは支払いを受けることができません。
 
 なお、車両保険を使うと保険料が原則増額されますので、その点は注意が必要です。

加害者に対する損害賠償請求

 では、車両保険に入っていない場合はどうでしょうか?

 純粋に台風の力のみで車に損害が生じた場合には、加害者が存在しませんので、損害の補填を受けることはできません。
 例えば、台風の風で車が横転したり、雨水で車が水没したような場合です。

 これに対して、加害者が存在する場合には、その人に対して損害賠償請求をして損害の補填を受けられる可能性があります。
 例えば、隣家の植木鉢が台風で飛ばされて車にぶつかったような場合です。

 台風で植木鉢が飛んで第三者に損害を与えることは十分に予見でき、台風が来る前に植木鉢を屋内などに移動させることで損害の発生を防止できますから、それを怠った過失により、被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負うものと考えられます。

 また、台風で屋根の瓦が飛んだり、ブロック塀が倒壊して車に損害が生じた場合には、その占有者(占有者に責任がない場合には所有者)に対して工作物責任に基づく損害賠償請求(民法717条)をすることが考えられます
(なお、ここにいう占有者とは、瓦等の工作物を事実上支配して、その瑕疵‐その工作物が通常有しているべき安全性を欠いていること‐を補修し、損害の発生を防止できる者をいいます。)

 しかし、滅多にない強烈な台風で屋根の瓦やブロック塀が飛んでしまうことは無理からぬ(避けられない)こともあるでしょう。
 
 台風以前より塀のぐらつきや瓦の剥がれなどその設置に問題があったにも関わらず、それを放置していたような場合はともかく、通常備えるべき安全性を備えており、滅多にない強烈な台風で飛ばされてしまった場合にまで工作物責任を問うことは難しいものと思われます。

まとめ

 今回の台風10号は観測史上最大クラスとのことで、通常の台風をはるかに超える被害が生じることが予想されます。
 車両保険に入っていれば車に生じた損害の大半は補填されますが、車両保険がない場合には自費での修理を余儀なくされてしまいます。
 台風で飛ばされた物が車にあたって損害が生じた場合には、その持ち主に対して損害賠償請求して損害の補填を受けることも考えられますが、どこから飛んできた物か分からず責任の所在が明らかでない場合も多々あります。
 最後は月並みになりますが、やはり台風が来る前にできる限りの備えをしておくことが最も重要です。それでも被害が発生してしまった場合には、お気軽に弁護士にご相談ください。