判例紹介(過失割合) 駐車場の通路に向かってバックしていた車とそれを追い越した車の衝突事故
監修:弁護士 西野智貴( 弁護士への相談はこちら ☞ お問い合わせ・無料相談予約 )
東京地判平成23年12月13日
駐車場において、通路に向かってバックしていた車とそれを追い越した車が衝突した事故について、過失割合を判断した裁判例をご紹介します。
事故態様
本件病院の駐車場付近の東西通路は、川崎街道に面して設けられた本件病院敷地の出入口(東方)から本件病院の正面玄関(西方)に至る片側1車線の通路であり、各車線の幅員は3.1mで、白色破線の中央線が設けられている。この中央線は公安委員会が設置した道路交通法上の道路標示又は道路標示とみなされる区画線ではなく、東西通路の幅員が南北通路の幅員よりも明らかに広いともいえないから、東西通路については道路交通法上の優先道路と同様の優先性はない。東西通路の南側にはポールコーンで区画された歩行者用通行部分が設置されており、更にその南側には駐車場がある。駐車場は、南北通路によって東西通路に通じる形になっており、南北通路の南端には「入口」と記載された標示板が設置されている。南北通路と歩行者用通行部分が交差する部分の路面には、東西通路に沿って横断歩道様の標示がされている(以下,この標示がされている部分を「本件横断歩道」という。)。なお、東西通路の路面には「最徐行」との標示がある。
X車は、駐車場に入るため、東西通路の左側車線から、左にハンドルを切って少なくとも本件横断歩道上まで進行させたが、同乗していた父親を本件病院の正面玄関で降ろしてから駐車することにし、方向転換をして再び東西通路に入ることにした。そこで、X車は、後退し、一旦停止した。
Y車は、本件事故直前、川崎街道から本件病院の敷地内に入り、東西通路の左側車線を西方に向かって走行した。Y車は、バックランプを点灯させて後退するX車に気付き、右側車線に進路変更をしたが、X車のバックランプの灯火が消えたのを見た後、東西通路の左側車線に戻るため、時速20km台後半まで加速しながら合図を出さずに左方に進路変更をした。
X車は、一旦停止した後、右にハンドルを切って前進させ、他方、Y車は、X車のバックランプの灯火が消えたのを見た後は、進路前方を見ることに気を取られ、X車の動静を注視せずにY車を左方に進路変更して走行させたところ、東西通路の左側車線の概ね真中の地点において、X車の右前部(前部バンパーの右角付近)とY車の左側面後部(左後部ドア付近)とが接触する本件事故が発生した。
X車においても、X車とY車が接触して初めてY車の存在を認識した。
裁判所の判断
過失割合 車(X)60%:車(Y)40%
X車は、X車を一旦駐車場に入れようとしたのをやめて、後退しつつ方向転換をするような形で本件横断歩道上から東西通路に向かって右方に進路変更をするという変則的な動きをしたほか、この進路変更は、東西通路を後方から直進してくる車両の進行を妨害するおそれが大きいにもかかわらず、進路変更をするに当たり後方の安全確認を十分しなかったのであるから、本件事故発生に関するX車の過失は大きいといわざるを得ない。
他方、Y車は、X車のバックランプの灯火が消えたのを見た後はその動静を全く確認しておらず、動静不注視の程度が著しいほか、東西通路は病院の敷地内の通路であり、本件事故発生場所は駐車場付近であるから、公道と比べて変則的な動きをする車両があることも予測することができるにもかかわらず、時速約20km台後半まで加速させたのであるから、Y車の過失も小さいとはいえない。
確かに、X車が再び東西通路に進入しようとしたのは、そこから東西通路への車両の進入が通常想定されていない南北通路(その南端に「入口」との標示があったこと及び駐車場の南側から駐車場の東側を通って本件病院敷地の出入口に至る通路が設けられていることからそのように推認される。)からであったが、だからといって、本件事故発生場所付近で変則的な動きをする車両があることを予測することができるとの上記認定が左右されることにはならないし、東西通路は最徐行で走行すべきであるとも標示されていたのであるから、東西通路を直進するY車が前車であるX車の動静に注意を払うべきであったことには変わりがない。
以上で検討したX車とY車の過失の内容、東西通路について道路交通法上の優先道路と同様の優先性を認めることはできないが、X車が行った進路変更の後続直進車に対する進行妨害の程度が大きいことなどに照らすと、X車とY車の過失割合は、X車が60%、Y車が40%とするのが相当である。
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