交通事故コラム

高次脳機能障害の認定に神経心理学的検査の結果は影響するか?

交通事故 神経心理学的検査 高次脳機能障害

〈質問〉神経心理学的検査の結果は高次脳機能障害の認定に影響しますか?

 MMSE、WAIS、WMS-R等の神経心理学的検査の結果によって高次脳機能障害の有無や程度の認定に影響はありますか?

〈回答〉高次脳機能障害の有無の判断においては重視されていないが、高次脳機能障害があるとされた場合に、その程度の判断を行うに際しては参考にされることが多い。

 高次脳機能障害の有無の判断においては、CTやMRI画像によって客観的に脳の損傷が認められることや意識障害の有無・程度が重要であり、神経心理学的検査の結果は重視されていません。
もっとも、CTやMRI画像等によって高次脳機能障害があると認められた場合に、障害の程度(労働能力への影響)を判断するに際しては、神経心理学的検査の結果が考慮されることが多いようです。

〈弁護士による解説〉

神経心理学的検査

 神経心理学的検査とは、高次脳機能障害の診断や程度を評価するための検査で、以下のような検査方法があります。
 高次脳機能障害の有無を簡便に検査(スクリーニング)する方法として、MMSE(ミニメンタルステート検査)やHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)が広く使用されています。
 また、知能評価の検査方法としてWAIS(ウェクスラー成人知能検査)、注意機能評価の検査方法としてCAT(標準注意検査法)、遂行機能評価の検査方法としてBADS(遂行機能障害症候群の行動評価)、記憶評価の検査方法としてWMS-R(ウェクスラー記憶検査)などがあります。
 以上のような検査方法を組み合わせて行うことで、高次脳機能障害の評価の精度が高まると考えられています。
 もっとも、神経心理学的検査は、被検者が設問に回答するかたちでの検査であることから、被検者が意図的に低い成績を出すことも可能であり、検査結果の信用性には疑問がぬぐえません。

自賠責保険における神経心理学的検査の位置づけ

 そのため、自賠責保険においては、障害の程度を認定するうえでの神経心理学検査の位置づけとして、神経心理学検査の「結果も参考にする」が、「これら(WAIS-Ⅲ、WMS-Rなど)の検査は行動障害や人格変化を評価するものではないことに留意しなければならない」とされており(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)2018年5月31日」)、神経心理学的検査は参考にするものの、画像所見や意識障害といった高次脳機能障害認定の重要な要素と並ぶものではないと考えられています。

裁判例

 実際に、画像所見などがない事案で被害者が神経心理学的検査の結果から高次脳機能障害を主張して争った裁判例をみてみると、以下のとおり、その信用性の問題から、それのみで高次脳機能障害の存在を認めることは困難とされています。

名古屋地判平成29年9月19日自保ジャーナル2002号1頁

「神経心理学的検査の結果では、高次脳機能障害と矛盾しない内容となっているが、・・・それ以外の諸事情(画像所見、意識障害の有無・程度及び症状経過)が原告について、外傷性の高次脳機能障害があるとするには消極的なものとなっていることに加え、上記検査は本件事故から約2年経過後に実施されていること、被験者の協力なしに正確な数値が測定できない類のものであること、本件事故前の原告の知的水準から著しく低下したと認めるに足りる証拠もないことを踏まえると、かかる検査結果のみで原告の高次脳機能障害の存在を認めることは困難である。」

 一方で、画像所見などにより被害者に高次脳機能障害が認められる場合に、その障害の程度(後遺障害等級)を評価する際には、以下のとおり神経心理学的検査の結果が考慮されています。

東京地判平成24年9月28日交民45巻5号1216頁

「問題は、原告の高次脳機能障害の程度であるところ、・・・神経心理学的検査において、言語面の記憶及び処理速度の軽度の低下が認められる以外は大きな問題は認められず、・・・高次脳機能スクリーニング検査においても、知的機能や記憶機能に問題はなく、処理速度の軽度遷延及び注意集中力にむらがあることが指摘されるにとどまっていること、・・・以上を総合考慮すると、原告の後遺障害は、後遺障害等級表9級10号に該当すると認めるのが相当である。」

まとめ

 神経心理学的検査の結果は、それ自体の信用性の問題から、他の信用性の高い証拠(CT・MRI画像や意識障害の有無・程度などの記録)が無い場合に、その検査結果から高次脳機能障害があるとの認定を受けることは困難であるというのが現状です。上記の裁判例でも「被験者の協力なしに正確な数値が測定できない」問題が指摘されており、高次脳機能障害の認定可能性を検討する上で、神経心理学的検査の結果を重視しすぎないことが重要といえます。
 交通事故による高次脳機能障害の被害でお困りの方は、一度弁護士にご相談ください。