交通事故コラム

高次脳機能障害の損害として家屋改造費用や自動車購入・改造費用は認められる?

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〈質問〉自宅をバリアフリー化する費用や車いすでの乗り降りがしやすい車両に買い替える費用は請求できる?

 交通事故で高次脳機能障害となり、車いすでの生活を余儀なくされた被害者について、自宅をバリアフリー化するための費用や、車いすでの乗り降りがしやすい車両に買い替えるための費用は、交通事故による損害として認められますか?

〈回答〉家屋改造費用や車の買替・改造費用が損害として認められる場合があります。

 被害者に生じた障害の内容や程度、従来の自宅家屋の構造などから、家屋を改造する必要性が認められる場合には、交通事故による損害として認められます。
 また、車両の購入や改造の費用は、被害者の介護状況から必要性が認められる場合には、平均余命までの相当な費用が損害として認められます。

〈弁護士による解説〉

家屋改造費用

エレベーターの設置など

 交通事故の後遺症で、車いすでの生活を余儀なくされるなどして、自宅の階段の上り下りや入浴、トイレの使用などに支障を生じることがあります。
 このような場合には、エレベーターや昇降リフトを設置したり、浴室やトイレを広くするなど、家屋を改造する必要がありますが、その費用は事故による損害として加害者に請求できるのでしょうか?

改造の必要性があれば損害として認められる

 家屋の改造費用は、被害者に生じた障害の内容や程度、従来の家屋の構造などから、改造の必要性が認められる場合には、事故による損害として認められます。

同居の家族も利益を受ける場合には割合的に認められる

 もっとも、改造の内容によっては、他の家族にとっても利便性が向上するものがあり、そのような場合には、実際の改造費用の何割を損害として認めるといった、割合的な認定がされています。

裁判例

 例えば、高次脳機能障害で2級の後遺障害等級が認められた被害者の事案で、家族らと5人で生活する自宅をバリアフリーにするための改造費用2000万円を請求したところ、改造費目の中にシステムキッチンを1階と2階両方に設置することや、食洗器、熱交換型換気扇、アコーディオンカーテンなどの設置が含まれており、それらは被害者の在宅介護に必要不可欠な改造とは認められず、自宅の改造により同居の親族も利便性を享受することが認められることから、事故による損害として認められるのは、見積金額の5割にあたる金額とされた裁判例があります(東京地判平成23年1月20日交民44巻1号32頁)。
 また、高次脳機能障害等で併合4級の後遺障害等級が認められた被害者の事案で、従前焼き肉店として使用していた自宅1階部分を、介護のために居住スペースに改造する費用として約914万円請求したところ、裁判所は、事故が無くても早晩焼き肉店の継続は危うくなり店舗設備が無用の長物になる可能性が高いと評価し、被害者と同居者に対する利便性は大きいとして、手すりを設置する費用全額に加えて、その他の改造費用の5割を事故による損害として認めると判断しており(大阪地判平成25年9月26日交民46巻5号1286頁)、参考になります。

転居費用や家賃差額を認めた裁判例も

 なお、自宅の改造費用のほかに、従前の自宅からバリアフリーの賃貸マンションへの転居を余儀なくされる場合の転居費用や従前家賃との差額分を損害として認めた裁判例もあります(東京地判平成28年2月25日交民49巻1号255巻)。

自動車の購入・改造費用

車いすでの生活に必要な自動車の購入

 被害者が車いすでの生活を余儀なくされると、病院への送り迎えなどで、車いすごと乗車できるようにするため、従来から使用する自動車を改造したり、新たに介護用自動車を購入したりする必要があります。

平均余命までの買替費用・改造費用

 自動車は耐用年数が限られているため、被害者の平均余命まで買替や改造が必要と認められる場合には、その費用も損害として認められます。
 高次脳機能障害で後遺障害等級2級に認定された被害者について、原告の平均余命まで6年ごとに6回の買替費用を認めた裁判例があります(前掲東京地判平成23年1月20日)。

将来の介護状態の変化も考慮される

 将来介護状態が変化して介護用自動車の買替えが不要となることが見込まれる場合には、将来の買替費用が否定されることがあります。
 高次脳機能障害で後遺障害等級2級に認定された被害者について、被害者が医師の診察やリハビリテーションに行く際に移動用の車両として介護用自動車が必要であることは認められたものの、被害者がデイサービスを利用しているために介護用自動車を使用する頻度が低いことや、症状固定から3年を経過した後に職業介護人による介護が必要となることなどを考慮して、将来の介護用自動車の買替費用を認めなかった裁判例があります(神戸地判平成28年1月28日交民49巻1号94頁)。

まとめ

 以上のとおり、家屋の改造費用や自動車の買替・改造費用は、後遺障害の内容や程度などから必要と認められる範囲で、事故による損害として加害者に請求できます。
 交通事故の後遺障害でお困りの方は、一度弁護士にご相談ください。