交通事故コラム

重度後遺障害被害者の近親者・親族は固有の慰謝料請求できる?

交通事故 後遺障害 慰謝料 近親者 疑問

〈質問〉近親者固有の慰謝料が認められる場合は?その金額,相場は?

 交通事故で重度の後遺障害を負った被害者の近親者は、近親者固有の慰謝料を加害者に請求できると聞きましたが、具体的には、どのような場合に、どの程度の金額認められるのでしょうか?

〈回答〉 高位の後遺障害等級は近親者慰謝料が認められやすい。金額は被害者本人の1~3割程度。

 後遺障害等級が1級や2級など高位の後遺障害等級の場合は近親者慰謝料が認められやすく、比較的低位の場合でも認められる場合があります。近親者慰謝料の金額は被害者本人の慰謝料の1~3割程度を認める裁判例が多いようです。

〈弁護士による解説〉

近親者固有の慰謝料・・・被害者の死亡に比肩する(同等の)精神的苦痛を受けた場合に認められる

 交通事故の被害者には、事故によって受けた精神的苦痛の慰謝として、いわゆる「慰謝料」を加害者に損害賠償請求することができます。
 この「慰謝料」は交通事故の被害者本人だけでなく、被害者の近親者にも認められる場合があります。
 被害者の死亡事故(生命侵害)の場合について、民法711条は明文で、被害者の父母、配偶者、子に、近親者固有の慰謝料請求権を認めています。
 また、死亡の場合でなくても、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、民法709条、同710条に基づいて、近親者に固有の慰謝料請求が認められると考えられています(最判昭和33年8月5日民集12巻12号1901頁)。
 なお、近親者の範囲は、被害者の父母、配偶者、子に限られず、被害者と一定の関係がある者について、被害者本人の死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、自己の権利として慰謝料請求権が認められます(死亡した被害者の夫の妹について、その者が身体障害者で長年被害者と同居して被害者の助けを得て生活してきており将来もその継続を期待していたと認められる事案で、民法711条を類推適用して、その者固有の慰謝料請求権が認められています。最判昭和49年12月17日民集第28巻10号2040頁)。

被害者の死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合とは

 被害者の死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合とは、どのような場合なのでしょうか?

後遺障害等級1級の場合

 後遺障害等級の高位、特に1級の場合には、ほとんどの判例で、請求する限り認定されているようです。

 〈裁判例〉

〇東京地判平成16年5月31日交民37巻3号675頁
 四肢不全麻痺等(後遺障害等級1級3号)の兼業主婦(症状固定時45歳)の慰謝料について、傷害分360万円、本人後遺障害分2800万円の他に、夫に400万円、子二人に各200万円、父母に各100万円の近親者慰謝料を認めた。
〇長野地判平成18年11月15日自保ジャーナル1675号9頁
 脳挫傷等(後遺障害等級1級1号)の主婦(症状固定時60歳)の慰謝料について、傷害分260万円、本人後遺障害分2800万円の他に、夫に300万円、長女及び養子となった長女の夫に各200万円の近親者慰謝料を認めた。
〇神戸地伊丹支判平成30年11月27日自保ジャーナル2039号1頁
 遷延性意識障害(後遺障害等級1級1号)の中学生(女性・症状固定時17歳)の慰謝料について、傷害分435万円、本人後遺障害分3000万円の他に、父母に各400万円、姉と兄に各200万円の近親者慰謝料を認めた。

後遺障害等級が2級以下の場合

 また、後遺障害等級1級に限らず、被害者の日常的介護等のために近親者自身の自由が奪われて精神的苦痛を受けるような場合であれば、慰謝料請求が認められます。
 後遺障害等級が比較的低い場合でも、近親者慰謝料が認められることはありますが、後遺障害等級が高い場合ほどには認められていないようです。

〈裁判例〉

〇東京地平成20年1月24日交民41巻1号58頁
 高次脳機能障害、右下肢短縮等(後遺障害等級併合2級)のトラック運転手(男性・症状固定時40歳)の慰謝料について、傷害分400万円、本人後遺障害分2370万円の他に、妻は精神状況が大きく変化した夫を将来も看護しなければならないことを理由に200万円、子二人は強いショックを受けたと推認できることから各100万円の近親者慰謝料を認めた。
〇名古屋地判平成23年4月26日自保ジャーナル1852号43頁
 高次脳機能障害(後遺障害等級3級3号)の会社員(男性・症状固定時28歳)の慰謝料について、傷害分400万円、本人後遺障害分1850万円の他に、食事の摂取や清潔維持のために援助が必要であり、性格変容により家庭内等で暴言や暴力をふるい医療保護入院が必要になる状況にあること等から父母に各200万円の近親者慰謝料を認めた。
〇さいたま地裁平成25年7月19日自保ジャーナル1907号90頁
 高次脳機能障害(後遺障害等級併合4級)の男児(症状固定時10歳)の慰謝料につき、傷害分250万円、本人後遺障害分1670万円の他に、長期にわたり重度の後遺障害を抱えることになり両親には少なからぬ負担があること、両親は事故直後から本人の重篤な状態に悩まされ将来の手術の必要が生じることなどから両親各50万円の近親者慰謝料を認めた。

近親者慰謝料の金額

 近親者慰謝料として認められる金額は、裁判例をみると、被害者本人の慰謝料の1割から3割程度とされているようです。

まとめ

 交通事故の近親者慰謝料は、後遺障害等級が高いほど認められやすく、またその金額も大きくなります。重度の後遺障害が残る場合、被害者は勿論、被害者をそばで支える近親者の精神的負担も大きいですから、その精神的負担に見合った金額を慰謝料として加害者から受け取るために、近親者の側から加害者に対して十分に主張・請求する必要があります。交通事故による後遺障害でお悩みの方は一度弁護士にご相談ください。