交通事故コラム

高速道路サービスエリア駐車場における車両同士の事故

高速道路サービスエリア 交通事故 駐車場 過失割合

〈質問〉高速道路サービスエリア駐車場での後退進行車と前進車間の事故の過失割合

 高速道路サービスエリアの駐車場を車で走行していたところ、バックで駐車しようとしていた相手の車と衝突してしまいました。当時駐車場は混雑しており、駐車区画でない歩道の縁石付近に駐車する車がところどころに見られる状況でした。相手の車は、私の前を走っており、左側の歩道の縁石付近で停車してハザードランプを点滅させたことから、私は、相手の車がそこに駐車すると考えて、その右横を通過しようとしたところ、実は相手の車はバックで右側の空いていた駐車区画に駐車させようとしており、バックしてきた相手の車と私の車が衝突したのです。私と相手の過失割合は何対何になるでしょうか?

〈回答〉過失割合を前進車2割:後退進行車8割とした裁判例があります。

 裁判例(東京地判平成22年3月25日)によれば、後退進行車には後方の安全確認不十分なまま後退進行させた過失が、前進車には、後退進行車の動静及び安全の確認不十分なまま通過させた過失があるとして、前進車2割、後退進行車8割の過失が認められています。前進車が2割の過失をとられているのは、後退進行車がハザードランプを点滅させて一旦停止しており、その右後方には空き駐車区画があったという事故当時の状況から、前進車は後退進行車がそのまま駐停車せずバックしてくることを容易に予見できたと評価されたためです。

〈弁護士による解説〉

駐車場内での事故

 駐車場内での交通事故の過失割合を判断するにあたっては、駐車場の特殊性が考慮されます。
すなわち、駐車場は駐車を目的とする場所であり、車が後退したり方向転換することは勿論、駐車した車から人が降りてきたり、駐車された車と車の間を人が歩くなど、通常の道路では想定されていない車や人の動きがあることから、駐車場において車を運転する者に対しては、道路を走行する場合と比して、より高度な前方注視義務や徐行義務が課されているものと考えられます。
そのため、駐車場内での事故の過失割合を判断するにあたっては、高度の前方注視義務や徐行義務を前提として過失割合が判断されます。
次の裁判例においても、高度の前方注視義務があることを前提に過失割合が判断されています。

東京地判平成22年3月25日

 高速道路サービスエリア内で駐車区画にバックで駐車しようとしていた車両の右後部と、その右側を直進していた車両の左後部が衝突した事故

-事故当時の状況-

 駐車場は一方通行で、自動車用通路を走行する車からみて進行方向右側に駐車区画が並んで配置され、進行方向左側には歩行者用通路が縁石線によって区画されていました。
 当時駐車場は混雑しており、歩行者用通路の縁石線に沿って駐車されている車がところどころに見られました。
 Aが運転するA車は、空いている駐車区画を探して自動車用通路を徐行していたところ、空きを発見したので、バックで駐車区画に駐車するため、ひとまずハンドルを左に切って前進し、バックでの駐車を容易にするためにA車を自動車用通路前方へ向かって左斜め向きにして、歩行者用通路の縁石線付近に一旦停車させました。そして、バックすることを明らかにするためハザードランプを点滅させて、ハンドルを右に切るなどしてA車を駐車区画に入れようとバックをしたところ、B車と衝突しました。
 Bが運転するB車は、A車に続いて徐行していたところ、A車の歩行者用通路の縁石線付近での停止及びハザードランプの点滅を確認して、A車がそのまま駐停車するものと考えて、その右側を徐行して通過しようとしたところ、実は右側の空いている駐車区画にバックしようとしていたA車と衝突しました。Bは右側の駐車区画が空いていたことやA車のバックに気づいていませんでした。

―裁判所の判断―

⑴ 事故の主たる原因はA車(後退進行車)の過失(後方安全確認不十分)

 本件事故は、主として、AがA車を後退進行させるにあたって、後方の安全を確認して後退進行させるべき注意義務があるのにこれを怠って、後方の安全確認不十分なまま後退進行させた過失によって発生したといえる。

⑵ B車(前進車)にも過失有(A車の動静及び安全を確認して通過させる注意義務)

 もっとも、本件事故は高速道路サービスエリア駐車場内で発生したものであるところ、本件事故の発生直前に、A車は自動車用通路前方へ向かって左斜めに向きに停車してハザードランプを点滅させており、その右後方には空き駐車区画があったことから、ところどころに歩行者用通路の縁石線に沿って駐車されている自動車が見られたとしても、A車がそのまま駐停車することなく引き続き後退進行することは容易に予見できたといえる。
 それにも関わらずBは、A車の歩行者用通路の縁石線付近での停止及びハザードランプ点滅を確認すると、A車がそのまま駐停車すると即断してA車の動静に注意したりB車を一時停止させたりすることのないままA車の右側を通過しようとしており、Bにも、B車を運転してA車の側方を通過させるに当たって、A車の動静及び安全を確認して通過させるべき注意義務があるのにこれを怠り、A車の動静及び安全の確認不十分なまま通過させた過失がある。

⑶ 過失割合はA車(後退進行車)が8割、B車(前進車)が2割

 上記検討を踏まえて、A及びBの過失の内容及び軽重を比較考慮すれば、その過失割合は、A80%、B20%と認めるのが相当である。

まとめ

 今回は、高速道路サービスエリア内の駐車場における事故の裁判例を取り上げました。駐車場は通常の道路と異なり車の後退進行や方向転換が当然に行われることから、通常の道路よりも高度な前方注視義務が求められており、今回取り上げた裁判例においても、B車(前進車)に高度な前方注視義務があることを前提に過失割合が判断されていることをお分かりいただけるかと思います。駐車場内の交通事故に遭われた方は、一度弁護士にご相談ください。