交通事故コラム

評価損とは

高級車 評価損 交通事故

〈質問〉評価損って認められないの?いくらくらい認められるの?

 評価損とは何でしょうか。どのような場合にどの程度認められるのでしょうか。

〈回答〉評価損とは修理しても残る外観や機能の欠陥または事故歴による減価のこと。定まった基準はありません。

 評価損とは、修理しても外観や機能に欠陥が残り、または事故歴が付くことで価値が下がるような場合の、事故当時の車両時価と修理後の車両価格との差額のことです。評価損が認められるかはケースバイケースで、定まった基準はありませんが、評価損を認めている裁判例は多数あります。

〈弁護士による解説〉

評価損とは

 車両が事故で損傷した場合において、修理をしても完全に原状回復できずに、その機能や外観などに欠陥が残存している場合や、事故歴が付くことで中古市場での価値が低下するような場合に、事故当時の車両時価と修理後の車両価格との差額を評価損といいます。

評価損の類型

評価損が問題となる場合を類型化すると概ね次のようになります。

⑴ 機能上の評価損

 修理は一応終了したものの、完全な修理が不可能のために、車両が事故前に持っていた機能を含む使用価値が減殺されて、それが交換価値の低下を伴う場合。

⑵ 外観上の評価損

 修理によって自動車が持っている機能は回復したものの、外板や塗装面に補修跡が残るために交換価値が低下する場合。

⑶ 取引上の評価損

 修理によって完全に修復されたものの、事故車が一般的に嫌われるために交換価値が低下する場合。

機能上の評価損と外観上の評価損は認められる傾向

 以上3つの類型のうち、機能上の評価損は一般的に認められやすい傾向にあり、実際に認めている裁判例も多くあります。

〈裁判例〉

大阪高判平成21年1月30日(判時2049号30頁)
 ポルシェカレラ911(1599万7848円で購入、初年度登録から約4か月)について、修理後も技術上の限界から機能上の損傷が完全に回復していない可能性があることを理由に、修理費用222万3273円の約7割相当額の150万円を評価損と認めた。

東京地判平成10年10月14日(交民31巻5号1523頁)
 トヨタ・セルシオ(登録後3年弱、走行距離約4万3000㎞)について、機能上の不具合等を理由に修理費用166万0143円の約2割相当額33万2028円を評価損として認めた。

 
 外観上の評価損については、トラックなど美観があまり問題とされない車種は認められにくいと思われますが、クラシックカーなど美観が重視される車では認められやすいと考えられます。

〈裁判例〉

東京地判平成29年3月27日(交民50巻6号1641頁)
 1966年製メルセデスベンツ250SEカブリオレ(昭和45年8月初年度登録)について、美観等が重視されるクラシックカーであることなどを理由に、修理費用430万0401円の約7割相当額300万円を評価損として認めた。

取引上の評価損は否定する見解と肯定する見解とに分かれている

 取引上の評価損については、これを否定する見解と肯定する見解とに分かれています。
 否定する見解は、現実に客観的価値の低下が存在しないこと、事故後もその車両を使用し続ける場合には損害が現実化しないこと、買替差額が認められる要件(車両の修理が不可能な場合や経済的全損の場合など)を満たさないのに買替差額が認められたのと同じことになるのは不合理であること、などを理由として挙げています。

〈裁判例〉

大阪高判平成5年4月15日(交民26巻2号308頁)
 機能・外観上の欠陥がなく、事故前に買い替える計画も近い将来に転売する予定もなかった場合に、日本自動車査定協会の減価額の証明があったとしても、潜在的・抽象的な価格の減少にとどまるとして評価損を認めなかった。

 肯定する見解は、自動車の交換価格の低下を積極損害(現に受けた損害)とみれば事故時にそれが現実化したものとみれること、事故車は縁起が悪いとされて中古車市場での価格が下げられることが多いことなどを理由として挙げています。肯定する見解によれば、実際に事故車を売却せずとも、事故歴があれば車両の交換価値は減少しており損害と認められると考えます。

〈裁判例〉

東京地判平成23年3月29日
 メルセデスベンツE430アバンギャルド(新車登録後4か月、走行距離2856㎞)について、高級車であることや新車登録から間がないこと、損傷の程度も極めて大きく高額の修理費用(713万6800円)を要していることから、修理費の3割程度214万1040円を評価損として認めた。

評価損の算定方法

 評価損の金額を算定する方式には以下のようなものがあります。

⑴ 減価方式

 事故前の車両時価と修理後の価値との差額を損害とする方式。機能上の評価損や外観上の評価損は、この方式によって算定することが合理的です。

⑵ 時価基準方式

 事故直前の車両価格の一定パーセントを損害とする方式。

⑶ 金額表示方式

 車種、走行距離、初年度登録からの期間、損傷の箇所や程度、修理費用等諸般の事情を斟酌して金額で示す方式。

⑷ 修理費基準方式

 修理費の何パーセントかを損害と認める方式で、取引上の評価損の算定方法として裁判例に多くみられます。車種、走行距離、初年度登録からの期間、損傷の箇所・程度、修理費用等を考慮して、修理費用の2割から3割程度の金額を認めるケースが多いようです。

まとめ

 評価損は、この場合にこれだけの金額が認められるというような一定の基準がないため、争いとなることが多い損害費目です。評価損を請求したい、または評価損の請求をされて困っているという方は、一度弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。