駐車場で事故発生!管理者の責任はあるの?
〈質問〉駐車場での事故について駐車場の管理者は責任を負う?
先日、コインパーキングで駐車スペースにバックで入庫しようとしたところ、駐車スペース内のフラップ板が上がったままの状態で、車両後部バンパーがフラップ板と接触して損傷してしまいました。コインパーキングの管理者に車両の修理費用を請求できますか?
〈回答〉コインパーキングの管理者は工作物責任(民法717条1項)に基づく損害賠償責任を負います。
コインパーキングの駐車スペースに設置されたフラップ板は土地工作物(民法717条1項)にあたり、入出庫の際にはフラップ板が下がっていなければ、本来の安全性を欠いていることから「瑕疵」があるといえ、コインパーキングの管理者は損害賠償責任を負います。もっとも、利用者側もフラップ板が下がっていることについて確認を怠ったものとして、過失相殺により賠償額が減額される可能性があります。
〈弁護士による解説〉
駐車場の管理者が責任を問われる場面
駐車場の管理者が責任を問われる場面としては概ね次のような場面が考えられます。
A 駐車場に車両を保管中に車両の盗難や損傷事故が発生した場合
B 駐車場の設備不良により事故が発生した場合
Aの場面では、利用者と駐車場管理者との間の保管契約上の債務不履行が問題となり、Bの場面では駐車場管理者の土地工作物責任(民法717条1項)が問題となるケースが多いと考えられます。
駐車場管理者の責任の法的根拠
駐車場の管理者が損害賠償責任を負う法的根拠は複数考えられます。
駐車場の利用関係や形状、駐車場の経営者に対する請求なのか駐車場の実際の管理者に対する請求なのか等、個別具体的な事情に応じて適切な法的根拠を選択します。
具体的には、
〇土地工作物責任(民法717条)
〇一般不法行為責任(民法709条)
〇営造物責任(国家賠償法2条)
〇賃貸借契約に基づく請求
〇保管契約に基づく請求
などが考えられます。
今回のコラムでは、土地工作物責任に焦点をあてて解説します。
土地工作物責任(民法717条)
民法717条1項
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」
駐車場は、「土地の工作物」にあたりますので、その「設置又は保存」に「瑕疵」があることによって他人に損害を生じた場合には、その工作物の「占有者」は、損害を賠償する責任を負います。
「占有者」が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、占有者はその責任を免れ、その場合には「所有者」が損害を賠償する責任を負います。
一般的な不法行為責任の場合、被害者の側で加害者の故意過失を立証しなければなりませんが、土地工作物責任においては、その立証責任が加害者(占有者)に転換されており、さらに占有者が無過失の立証に成功した場合、所有者が過失の有無を問われることなく責任を負うことになります(所有者の無過失責任)。
工作物は、それ自体が他人に損害を与える危険性を有していますから、立証責任の転換や無過失責任を加害者に負わせることで、被害者を保護しているわけです。
占有者
では、駐車場の占有者とは誰のことを指すのでしょうか?
駐車場の経営者と、実際に駐車場を管理している者が同じであれば、占有者の認定は容易ですが、例えば、経営者と管理者が異なり、さらにその駐車場を賃借して他者に使用させている者がいる場合はどうでしょうか?
これは、実際に裁判で争われたケースで、裁判所は次のように判断しました。
〈駐車場の占有者として3名想定されたケース〉
駐車場の土地所有者兼駐車場経営者のA、駐車場の管理委託を受けていたB、駐車場を会社顧客のために賃借していたCの3名が占有者として想定されたケースで、裁判所は、Bが「直接的、具体的に支配し、その瑕疵を発見ないし修補を第一次的になし得る立場にあった」として、Bを占有者と認定しました(東京地判平成24年11月13日)。
この裁判例によれば、占有者が誰なのかは、その駐車場を直接的、具体的に支配し、損害の発生を防止する立場にある者が誰かという観点から判断されることになります。
瑕疵
民法717条の「瑕疵」とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていることをいい、「構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき」(最判昭和53年7月4日民集32巻5号809頁)ものとされています。
駐車場の占有者に工作物責任を追及する場合、この「瑕疵」の有無が最大の争点となります。
以下、平置きの場合、機械式の場合、コインパーキングの場合に分けて解説します。
平置き駐車場の場合(車止めの有無)
平置き駐車場には、車止めがある駐車場とない駐車場があります。
車止めがないことのみをもって「瑕疵」ということは困難と思われますが、車止めがありながらも、それが地面に固定されていなかったケースで、それが瑕疵にあたるか否かが争われた裁判例があります。
〈車止めが地面に固定されていなかったケース〉
「駐車スペースが本件車庫から出入りする車両の通路となり得ることが一見して明らかであることからすれば、本件車止めが地面に固定されておらず、その旨の表示がなかったとしても、これをもって設置上の瑕疵とは認められない。」(東京地判平成24年11月13日)
上記裁判例の事案では、事故が起きた駐車スペースが、もともとその車庫を出入りする車の通路として利用されているスペースであり、車止めを固定できない場所であって、それは被害者含め利用者から一見して明らかであったことから、車止めを固定していなくても「通常備えているべき安全性を欠いている」とはいえないと判断されました。
機械式駐車場の場合
機械式駐車場では、車を載せる台が動きますから、その構造上一定の加速度が車に加わることは避けられません。では、どの程度加速度に耐えられる構造であれば工作物責任を負わずに済むのでしょうか。
〈機械式駐車場が動いた加速度で車が動いてしまったケース〉
「加速度等により自動車が破損することのないような設計等を行う必要があるが、一方で、一定の加速度等が加わることは不可避であること、一般に自動車を駐車する場合、運転者としては他人に危害を加えないように十分な停止措置をとることが期待されていることからすれば、立体駐車場を製造する者としては、少なくとも、利用者に一定の指示、警告をした上で、利用者において、成人男子が一人で手で押して自動車が動くといった程度の制御措置ではなく、この程度では動かない程度の制御措置をとることを前提として設計をしていれば、十分な「通常有すべき安全性を有する」といえるというべきである。」(東京地判平成24年3月28日)
上記裁判例は、利用者がサイドブレーキを十分に引かずに機械式駐車場に車を駐車したところ、機械式駐車場が動いた際に車に加わる加速度によって、車が動いて損傷した事案について、利用者においてしっかりと(成人男子が一人で手で押しても自動車が動かない程度に)サイドブレーキを引いて駐車すれば、機械駐車場が動いても車が動かない程度の設計がされていれば、通常有すべき安全性を有する(瑕疵がない)といえると判断されたものです。
コインパーキングの場合
コインパーキングでは、一般的にフラップ板(駐車料金未清算の車の移動を防ぐための金属ロック板)が設置されています。このフラップ板は入出庫の際には下がっていなければ車と接触してしまうため、上がったままの状態であれば「瑕疵」にあたるものと考えられます。
〈入庫の際にフラップ板が上がったままの状態だったケース〉
「フラップ板は、駐車スペースが空車となっていれば通常は下がった状態となるところが、本件事故当時の本件駐車スペースにおいては、本件センサーポールが傾いていたため、前車出庫後に本件フラップ板が上がったままの状態となる瑕疵が生じていたといえる。そうすると、本件駐車場の管理者たる被告が、本件駐車スペース内に設置した土地工作物である本件フラップ板の上記瑕疵があることによって生じた原告の損害について、民法717条1項に基づく損害賠償責任を負うことは明らかである。」(東京地判平成23年8月10日)
これは、質問のケースと同様のケースですが、フラップ板は、駐車スペースが空車であれば下がった状態にしておくことが通常有すべき安全性能であるといえますから、上がったままの状態は瑕疵となります。そして、上記の裁判例の事案では、管理者がその不具合に気づいていながら十分な対策を講じていなかったために土地工作物責任が認められました。
もっとも、裁判所は、利用者の側においても、「一般に、利用しようとする駐車スペース内のフラップ板が下がっていることを確認してから自車を入庫させることが求められている」として、利用者がフラップ板が下がっていることの確認を怠ったことについて落ち度があるとして、30%の過失相殺を認めました。
さらに、駐車場の管理者が、フラップ板が故障して上がったままの状態であることの注意を促す張り紙を掲示していたとして免責を主張したものの、裁判所は「事故の発生防止に必要な注意をしたとはいい難い。」と判断して免責を認めておらず、占有者の免責立証はかなりハードルが高いことがうかがえます。
まとめ
駐車場での事故は、車同士の事故だけでなく、駐車場設備の瑕疵によって起こることも決してめずらしくありません。駐車場内の事故でお困りの際は、一度弁護士にご相談ください。