交通事故コラム

交通事故の被害者は健康保険が使えない?メリットやデメリットは?

健康保険 保険証

〈質問〉 交通事故の被害者は健康保険を使えないの?

先日、名古屋駅近くの交差点で交通事故に遭い、その交通事故で怪我をして通院していますが、事故の相手方の保険会社は、私の方が過失が大きいからという理由で治療費の対応をしてくれません。健康保険を使って治療費用の負担を抑えたいのですが、交通事故の被害者は健康保険を使えないと聞きましたが本当でしょうか?

〈回答〉 交通事故の被害者は、過失の有無や程度に関わらず健康保険を使うことができます。

健康保険を使えば、使わない場合(自由診療)と比べて治療費自体を抑えられますし(診療報酬単価の違い)、自己負担(一部負担金)も原則3割で出費を大幅に抑えられます。一部負担金は最終的に事故の相手方との過失割合に応じて負担することになります。

〈弁護士による解説〉

相手方の保険会社が一括対応してくれないケース

交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、被害者が通院する医療機関への治療費などの支払いは、加害者の任意保険会社がしてくれることが一般的です(これを「一括対応」といいます)。
しかし、以下のようなケースでは一括対応をしてもらえず、被害者の方に治療費の「持ち出し」が生じることがあります。

〇過失割合に争いがある場合
事故態様について当事者の主張に食い違いがあるなどして、過失割合を争っている場合には、一括対応を拒否されることが多いようです。
〇被害者側にも相当程度過失がある場合
4割を超える場合は一括対応を拒否されることが多いようです
〇極めて軽微な事故
事故自体が極めて軽微で治療の必要性がないことが明らかな場合には、一括対応を拒否されることがありえます。

以上のような場合には、被害者の方は過失割合など相手方との争いに決着がつくまでの間、治療費の持ち出しが続くことになり、大変苦しい状況となります。それにより、痛みが継続するのに治療をやめてしまう方もいるかもしれません。
そこで、健康保険の活用を検討することになります。なお、自賠責保険の利用も当然検討されるべきですが、後述するとおり自賠責保険を利用する際にも健康保険利用のメリットがありますので、まずもって健康保険の利用を検討します。

健康保険の利用

⑴ 保険診療と自由診療の違い

病院で診療を受ける場合、「保険診療」と「自由診療」の2種類があります。
「保険診療」は、健康保険法などの法的な規制に従って保険が適用される診療のことで、使用できる薬剤の種類や量などに制限はありますが、一部負担金(原則3割)を除いて治療費は保険者(健康保険組合など)が負担してくれます。また、治療費自体も、診療報酬単価が1点10円と定められており、後述の「自由診療」よりも相当費用を抑えることができます。
なお、健康保険を使う場合には、被害者が加入している健康保険の保険者に対して、「第三者行為による傷病届」等の書類を速やかに提出する必要があります。
これに対して、「自由診療」とは、患者と医療機関との間の個別の契約に従って行われる診療で、診療の内容や診療報酬に法的な制限がありません。健康保険の適用がありませんので、全額患者の自己負担となりますし、治療費自体も診療報酬単価は1点20円~25円が一般的ですので、「保険診療」と比較して相当高額となります。

⑵ 健康保険のメリット

このように、健康保険を利用することで、持ち出しが一部負担金の原則3割に抑えられますし、診療報酬単価の違いから治療費全体の金額を抑えることができます。
治療費全体の金額を抑えることで、自賠責保険の傷害保険金の限度額120万円を治療関係費以外の慰謝料や休業損害などに充てられますので、健康保険を利用するメリットは大きいといえます。
さらに、過失相殺がある場合に、健康保険を利用した場合と利用しない場合とでは、最終的に被害者が補填を受けることのできる金額に差が生じる可能性があります。
健康保険を利用した場合、被害者は健康保険で支払われない治療費の自己負担分やその他の損害(慰謝料や休業損害など)を加害者に請求できます。そして、過失相殺の方法について、損害額から健康保険で支払われた金額を控除した残額、すなわち相手方に請求する金額について過失相殺されることになります。
これに対して、健康保険を利用しない場合、治療費含め損害の全額を加害者に請求することになりますが、この場合、過失相殺は治療費含め損害の全額についてなされるため、最終的に被害者が受け取ることのできる金額は健康保険を利用した場合よりも少なくなります。

⑶ 具体例

イメージしやすくするために、具体例を挙げてみましょう。
治療費に100万円かかったとします。健康保険を使うと、自己負担分3割の30万円を加害者に請求することになります。そして、被害者の過失が30%あるとされる場合、加害者から受け取ることのできる金額は21万円です。その結果、被害者が負担する金額は9万円となります(通常は慰謝料請求なども加わりますので、プラスになるでしょう。)
これに対して、健康保険を使わない場合、治療費100万円(通常は健康保険を使う場合より高額になりますが便宜上同じ金額としています)を加害者に請求し、過失相殺で30%減額されると、加害者から受け取ることのできる金額は70万円です。その結果、被害者が負担する金額は30万円となります。健康保険を使った場合は9万円ですから、実に21万円の差が生じています。
自賠責保険を利用する場合でも、健康保険を使った場合、限度額120万円から治療費用の自己負担分30万円を除いた90万円から慰謝料等の損害の補填を受けられるのに対し、健康保険を使わなかった場合、限度額120万円から治療費100万円を除いた20万円からしか慰謝料等の損害の補填を受けられません。
従って、被害者に過失がある場合で、相手方の任意保険会社が一括対応しない場合には健康保険を利用するメリットがあるといえます。

まとめ

病院によっては、交通事故で怪我をした場合は健康保険が使えないと説明しているところもあるようですが、そのようなことは全くありません。加害者の保険会社が一括対応しない場合は速やかに健康保険の利用を申請してください 。
なお、健康保険が使えないと誤解されて自由診療で受診されて、治療費を支払っている場合、健康保険組合に療養費の支給申請をすることで、一部払い戻しを受けることができます(治療費全額が払い戻されるわけではなく、保険診療を受けた場合を基準に計算した金額から自己負担の3割分を除いた金額が払い戻されます)。また、受診した保険医の医療機関窓口に診療月内に保険証を提示すれば保険扱いしてもらえる場合もあるようですので、早めに医療機関窓口にご相談されてみてください。