頭部(脳)の損傷
- 新しいことが覚えられない、すぐに忘れてしまう、思い出せない
- 集中力や記憶力が低下したと感じる
- 感情のコントロールができない
- 疲れやすく、すぐ居眠りするようになった
- 同時に2つ以上のことができなくなった
- 怒りっぽくなった
交通事故で脳が損傷を受け、認知障害や人格変化などを引き起こす
高次脳機能障害の可能性があります。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳に損傷を受けたことにより、思考や記憶力といった脳機能の障害をいいます。
高次脳機能とは、記憶・注意・行動・言語・感情など、人間らしい言動をとるための高い次元の脳機能のことを意味します。
人とコミュニケーションを図ったり、道具を使った作業をしたり、問題解決に向けて思考する能力は、本来備わっている機能であり、
脳を損傷したことでこのような機能を失われてしまう場合があります。
高次脳機能障害の症状
効率よく仕事ができなかったり、指示してもらわないと何もできないなどの症状が見られます。
聞いて理解することや思った言葉を発することなど、言語に関する障害が見られます。
失行症とは、身体的機能に関しては何も問題なく、指示された内容や行動を認識しているのに、
うまく動作ができない状態をいいます。
人の顔が判別できなかったり、形や色が分からないなどの症状が見られます。
高次脳機能障害の等級
1級1号
常に介護を要するもの
生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
2級1号
随時介護を要するもの
身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
3級3号
終身労務に服することができないもの
5級2号
特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。
このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
7級4号
軽易な労務以外の労務に服することができないもの
約束を忘れる、ミスが多いなどのことから
一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級10号
服することができる労務が相当な程度に限定されるもの
作業効率や作業持続力などに問題があるもの
高次脳機能障害発症の有無の判断及びその症状の的確な把握
自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)(平成30年5月31日)」によれば、脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するためには、
①意識障害の有無とその程度・長さの把握、
②画像資料上で外傷後ほぼ3ヶ月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の所見、さらに
③交通事故等によって負った傷害との因果関係の有無(他の疾患との識別)が重要なポイントとなり、
④その障害の実相を把握するためには、診療医所見はもちろんのこと、家族・介護者等から得られる被害者の日常生活の情報
が有効とされています。
認定のポイント
初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸素損傷、びまん性脳損傷、MTBI、軽度外傷性脳損傷等の診断がなされている症例
【頭部外傷の例】
びまん性軸索損傷急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性硬膜下水腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、外傷性脳内血腫、
外傷性脳室内出血、円蓋部骨折、頭蓋底骨折など
当初の意識障害が少なくとも6時間以上(JCSが3〜2桁、GCSが12点以下)
もしくは、健忘あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上((JCSが1桁、GCSが13〜14点)ある。
当初の意識障害について、カルテ上に少なくとも6時間以上の記録があることが必要です。
稀に、医師が当初の意識障害を適切に記載していないこともありますが、カルテ上に意識障害の記載がない場合は、
画像上で③の所見が認められなければ高次脳機能障害として認められることは困難でしょう。
脳の損傷が発生したことを裏付ける受傷後の画像、および脳の損傷により生じた障害状態が回復せず障害が残存したことを裏付ける画像により、
・脳室拡大・脳萎があるか
・脳内(皮質下白質、脳梁、基底核部、脳幹など)に点状出血しているか
・硬膜下ないしくも膜下出血の併発をしているか
がポイントとなります。ただし、画像上明らかではない場合でも①の頭部外傷の診断名があれば、
高次脳機能障害と認められる可能性はあります。
高次脳機能障害に特徴的な症状とは、
記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断力低下などの認知障害や、感情易変、不機嫌、などの人格変化等などの症状です。
裁判例では、①頭部外傷の診断も③の画像所見もない場合→精神症状④だけで脳外傷による高次脳機能障害が認められることは、基本的には困難のようです。
また、①の頭部外傷の診断があり、④の精神症状がある場合→③の画像所見がなくとも、脳外傷による高次脳機能障害として認められる可能性はあります。
認定資料
高次脳機能障害の等級認定にあたっては、症状固定時に作成される「自動車賠償責任保険後遺障害診断書」、その他事故発生の直後から後遺障害の症状が固定するまでの頭部の画像検査資料(レントゲン写真、CT、MRI等)や、すでに医師及び家族、介護者によって記載された「精神症状についての具体的所見」等をふまえて被害者に現れた具体的な症状を把握し、その障害等級の認定が行われます。
将来介護費用について
交通事故の被害者が高次脳機能障害を負った場合、その高次脳機能障害の程度によっては、他人による介護が必要な場合があり(自賠責保険後遺障害等級別表第一の1級1号、同2級1号)、施設等に入所させて介護を依頼したり、在宅介護の場合であっても、職業介護人に介護を依頼したりする場合には直接その費用を要することになります。また、近親者による介護であっても(その必要性が認められる限り)当該交通事故に基づく損害として金銭的な評価がなされ、将来の介護及びその費用負担は、高次脳機能障害者本人及びその家族等にとっても非常に重要な意味を持ちます(若年の障害者であれば、将来の介護費用だけで1億円を超える金額を認める裁判例も多数あります)。
そして、近年の医療技術の発達により、交通事故に遭っても、幸いにも一命はとりとめることができるケースが増えたものの、その代わり、被害者の介護が必要な状態となるケースも増大しており、将来介護費用の重要性もまた増大しています。
もっとも、高次脳機能障害においては、その後遺障害の程度に応じて、看視も含めて、どのような介護が必要となるのか個々の高次脳機能障害者により異なるものですから、将来介護の必要性及びその内容については、個別具体的事情を勘案した精緻な判断が必要となります。