接骨院や整骨院での施術費用は相手に請求できない場合がある?
〈質問〉接骨院や整骨院は病院とは違う?施術費用が損害と認められない場合がある?
交通事故でむち打ちとなり、事故の翌日に受診した病院で医師から約2週間の加療が見込まれると診断されました。その後、痛みが引かなかったことから家の近くの接骨院に4か月ほど通院して施術を受けました。その間病院には一度も行っていません。接骨院の費用を事故の相手に請求したいと考えていますが、認められるでしょうか?
〈回答〉柔道整復による施術費用は必要かつ妥当な範囲で認められる。医師による指示がない場合には損害と認められないこともある。
接骨院や整骨院での打撲や捻挫、脱臼や骨折などの外傷に対する施術は、柔道整復と呼ばれる医業類似行為の一つであり、医師が行う医業と区別されています。
治療費用が事故による損害と認められるためには、その治療が必要かつ妥当なものといえる必要があるところ、裁判例では、医師の指示に基づかない接骨院への通院について、施術費用の一部を損害と認めないと判断されているものもあり、注意が必要です。
〈弁護士による解説〉
柔道整復とは
医業と医業類似行為
医業は、免許を持つ医師にのみ許されており、医師以外の者が行うことは禁止されています(医師法17条)。
外科的な手術や薬品の投与など交通事故の被害者に必要とされる治療は医師にしか認められていません。
これに対して、接骨院や整骨院の柔道整復師や、あん摩マッサージ師、はり師、きゅう師は、法律に基づく医業類似行為とされており、行うことのできる施術は限定されています。
柔道整復師が行うことのできる施術
柔道整復師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者のことをいい(柔道整復師法2条)、柔道整復師ができる施術は、打撲、捻挫、医師の同意のある脱臼、医師の同意のある骨折に対するものに限られています。外科手術や薬品の投与などはできません(柔道整復師法16条)。
柔道整復の問題点
治療費が認められる範囲
自動車事故による損害として治療費が認められる範囲は、自動車事故と相当因果関係があるものに限られます。つまり、自動車事故によるケガを治癒するために必要かつ妥当な範囲の治療に限って、その費用が損害と認められます。
施術の必要性・妥当性は慎重に検討される
柔道整復は、格闘技である柔道から発生・普及した東洋医学に基づく施術で、医師による整形外科の治療法と比較して限界があり、施術の手段・方式や成績判定基準が明確でないため、施術の客観的な治療効果の判定が困難との指摘があります。また、施術者によって技術が異なり、施術の方法、程度も多様であることから、その施術の必要性・妥当性は慎重に検討されるべきものと考えられています。
施術費が争われる事例の増加
近年、施術費自体が高額であったり、医師の診察をほとんど受けずに整骨院等に通院して、施術費と交通事故との間の因果関係が否定されると慰謝料の金額が低くなるなど整骨院等への通院が損害額に大きく影響することなどから、施術費が争われる事例が増加しています。
施術費が損害として認められるか否かの判断基準
それでは、施術費が損害として認められるか否かはどのように判断されるのでしょうか。
この点につき、裁判例では次のような考えが示されています。
東京地判平成14年2月22日判時1791号81頁
施術費が損害として認められる条件として、①施術の必要性、②施術内容の合理性、③施術の相当性、③施術の有効性などについての主張立証が必要。医師の治療のような必要性、合理性、相当性の推定をすべきではなく、医師の治療費と同様に加害者が負担すべき損害とはいえない。
医師の指示に基づくものであることが重要
上記裁判例は、柔道整復師による施術について、「その施術を行うことについて医師の具体的な指示があり、かつ、その施術対象となった負傷部位について医師による症状管理がなされている場合、すなわち、医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできない」と判示しており、医師の指示に基づく施術であることが損害として認められるために非常に重要であるといえます。
施術費の一部が損害と認められなかった事例
大阪高判平成22年4月27日交民43巻6号1689頁
医師に頸椎捻挫で2週間の加療見込みと診断された被害者が、整骨院に約5か月(実通院日数110日間)通院して自由診療で施術を受けて、約114万円の施術費がかかった事案で、裁判所は自動車事故から2週間の間で6回程度の頸椎捻挫による施術に限って必要性を認め、自動車事故と相当因果関係のある施術費は3万円弱と判断しました。
まとめ
接骨院や整骨院での柔道整復による施術は、医師による治療行為と明確に区別されており、医師による指示に基づかずに施術を受けた場合、その費用は事故の加害者に請求できない場合があります。
交通事故の被害に遭われた方は、先ず医師の診察を受けて、医師の指示のもとで接骨院などへの通院を行ってください。また、医師の指示を受けた後も、定期的に医師の診察を受けて、接骨院等での施術がまだ必要かどうか相談するようにしてください。