板金修理ではなく部品交換を主張したい!
〈質問〉車両損害の修理費用として板金修理ではなく部品交換の費用まで請求できる?
先日、車で信号待ちをしていたところ、後ろの車に追突されて、車のリア部分が凹んでしまいました。相当大きい凹みで、板金修理をしても完全に元に戻すことはできないため、凹んだパーツごと交換する方法による修理を希望しています。しかし、相手の保険会社は板金修理が相当であると主張して、板金修理分の金額しか支払わないと言ってきています。部品交換の費用は認められないのでしょうか?
〈回答〉部品交換の必要性を立証する必要があります。
車の修理費用に関して、被害者が部品交換を要求し、加害者は板金修理で足りると主張して争いになることが少なくありません。
部品交換の方が板金修理よりも一般的に高額であることから、部品交換費用の賠償を求める場合には、その必要性を立証する必要があります。
裁判例では、「新しい部品との取り換えの方が板金修理よりも経済的であるとか板金修理によれば機能上の異常が残ることが認められない」として部品交換を否定するものがあり、部品交換の必要性の立証は決して容易ではないといえます。
〈弁護士による解説〉
被害車両の修理費用
交通事故の被害にあった車両が修理可能な場合、修理に要する費用を損害として加害者に請求することができます。他方で、修理が不能(※)の場合には、買替費用を損害として請求することができます。
損害と認められる修理費用は、車両の損傷を原状に回復するために必要かつ相当な費用に限られます。事故による損傷と無関係の損傷を修理したり、事故前よりも高価な塗装をしたりなど、過剰な修理費用は損害とは認められません(裁判では、事故との相当因果関係がない、などと判断されることになります)。
※修理が不能の場合とは、物理的に修理が不能な場合、経済的に修理が不能な場合、及び買替えをすることが社会通念上相当と認められる場合をいいます(最判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁)。
部品交換費用
車両の修理費用に関して、部品交換か板金修理かで争いとなるケースは少なくありません。
板金修理とは、損傷した外板パネルの変形をもとの形状に修正する作業(内板骨格の修正に対しても使われることがあります)のことで、変形部分を裏側から工具を使って叩き出したり、表側から引っ張ったりして形状を整える方法で行われます。
板金修理は部品交換より安価に済むことが多いため、加害者側の保険会社は板金修理が相当と主張するのに対し、被害者側は、板金修理によっても完全に損傷が回復するわけではないとして、部品交換を求めて争いとなります。
部品交換の必要性は、事故態様や損傷の程度、部位、技術的観点から判断されますが、次のとおり裁判例は部品交換の必要性を厳しく判断しています。
裁判例
部品交換の必要性が否定された裁判例
〇東京地判平成6年9月13日交民27巻5号1220頁
メルセデスベンツのリヤエンドフロアーの交換の要否が争われた事例で、「本件事故による損傷はリヤエンドフロアーまで及んでいるが、板金修理以上にこれを交換すべきことを認めるに足りる証拠はない。」として、部品交換の必要性を否定。
〇岡山地判平成6年9月6日交民27巻5号1197頁
ボンネット、フロントピラーアウターインナー及び右フェンダーの交換の要否が争われた事例で、「交通事故により車両が損傷した場合、加害者がどの程度まで修理すべきか問題となるが、厳密に事故前と全く同一の状態に復元修理することが多くの場合技術的に不可能なことに鑑みれば、社会常識的にみて、車両の異常が除去され事故前の状態に復したと認められる程度の義務を果たせば足りるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、・・・の証言によれば、・・・前記各部品を取り替えるべきであるとする根拠は、結局仕上がりの良さを重視した結果であるが、一方で・・・これらの部品を板金修理することも可能であると供述していること、また、新しい部品との取り替えの方が板金修理よりも経済的であるとか板金修理によれば機能上の異常が残ることが認められないことに照らせば、前記各部品については着脱のうえ板金修理をもつて足りるというのが相当である」として、部品交換の必要性を否定。
部品交換の必要性が認められた裁判例
〇東京地判平成15年8月28日交民36巻4号1142頁
フォルクスワーゲン・ゴルフの左リアドア、左リアホイールの交換の要否が争われた事例で、事故態様や部品交換が適切とのディーラーの意見を参考に部品交換が合理的と判断された。
以上のとおり、裁判所は部品交換によることの必要性を厳しく判断しており、単に板金修理では仕上がりが美しくないといった理由では必要性が認められず、「新しい部品との取り替えの方が板金修理よりも経済的であるとか板金修理によれば機能上の異常が残ること」といった事情が求められています。
まとめ
板金修理が可能なケースで部品交換を求める場合、部品交換の方が経済的であるとか板金修理によっては機能上の異常が残るなど部品交換の必要性を被害者側で立証する必要があります。
加害者の保険会社が板金修理での修理費用を提示してくる場合、板金修理の合理性を検討した上での提示であることがほとんどと思われますが、検討が不十分のケースもありえますので、保険会社からの提示を疑問に思われる方は、ディーラーなどを通じて修理の専門家に部品交換の必要性を尋ねてみるとよいでしょう。相手の保険会社との交渉などでお困りの際は弁護士にご相談ください。