専業主婦(主夫)の休業損害?
〈質問〉専業主婦(主夫)にも休業損害は認められますか?パートをしている場合は?
晩ごはんの食材を買いに自転車でスーパーに出かけたところ、車とぶつかって右手を骨折してしまいました。私は夫と小学生の子ども二人の4人家族で、家事を一手に担っている専業主婦です。利き手である右手の骨折で洗濯物や料理、掃除といった家事全般に支障が生じました。専業主婦にも休業損害が認められると聞きましたが、損害額はどのように計算されるのでしょうか?パートで働いている場合でも家事労働に支障が生じれば家事労働の休業損害が認められるのでしょうか?
〈回答〉専業主婦も家事労働に従事できなかった期間につき賃金センサスの女子平均賃金を基礎として算定した休業損害が認められる。パート収入がある場合は、平均賃金と比較して高い方を基礎として休業損害を算定。
休業損害は、事故によるケガで収入が減少した場合に、その減少分を損害として事故の相手方に請求するものであり、収入があることを前提としていますが、収入のない専業主婦であっても、家事従事者として家事に支障が生じた範囲で休業損害を請求でき、賃金センサスの女子平均賃金を基礎として算定します。
パート収入など家事従事者に収入がある場合には、収入が平均賃金を超える場合には収入を基礎として、収入が平均賃金以下の場合は平均賃金を基礎として休業損害を算定するのが裁判例の傾向です。
〈弁護士による解説〉
休業損害
休業損害とは
休業損害とは、交通事故で負った傷害の治療のために休業を余儀なくされ、その間収入を得ることができなかったことによる損害です。簡単に言えば、減収額がそのまま損害となるのです。
休業損害の計算式
休業損害は、「1日当たりの基礎収入(休業損害日額)×休業日数」により求められます。1日当たりの基礎収入は、給与所得者であれば、事故前3か月の給与を合計した金額を90日で割って求めます。
後遺障害逸失利益との区別
休業損害は、傷害が治癒、または症状固定となるまでの間に被害者に生じた収入の減少であり、症状固定後に後遺障害で労働能力を喪失したために生じる収入の減少については、後遺障害による逸失利益という損害であり、休業損害とは別の損害として考えられています。
現実の減収があること
減収分の損害を算定するにあたって基準となるのは、事故当時の労働の対価としての収入であり、現実の減収がなければ休業損害は認められません。従って、無職の場合は原則として損害が無いことになります。
家事従事者の休業損害
それでは、現実に収入を得ていない専業主婦に休業損害は認められないのでしょうか?
家事従事者であれば年齢性別問わず休業損害が認められる
裁判所は家事従事者について、休業損害を認めています。
家事は対価の授受を伴わないものの、他人に依頼すれば当然対価を支払うものであり、家事自体によって財産上の利益が発生している(事故で家事に支障が生じた結果その利益が失われた)と考えられるためです。
最判昭和49年7月19日民集28巻5号872頁
「結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。のみならず、法律上も、妻の家計支出の節減等によつて蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は夫の死亡の際の相続によつて、妻に還元されるのである。
かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。ただ、具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少くないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。」
一人暮らしは家事従事者にあたらない
なお、一人暮らしの場合には、家事従事者としての休業損害は認められません。他人のためにする家事労働については労働の対価性が認められますが、自分のためにする家事労働は労働の対価性が認められず損害として評価できないためです。
女子平均賃金による算定
家事労働には収入がないため、基礎収入をどのように求めるかが問題となりますが、一般的には、賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の全年齢平均賃金(平成30年の賃金センサス女子平均賃金は382万6300円で日額換算すると1日1万0351円)が用いられます。
なお、男性が家事従事者の場合(いわゆる専業主夫)にも、賃金センサスの女子平均賃金を用いることが一般的です(横浜地判平成24年7月30日交民45巻4号922頁)。
兼業主婦の休業損害
家事従事者が、家事専業ではなく、フルタイムやパートタイムで勤務して収入を得ている場合、収入が平均賃金を超える場合には収入を基礎として休業損害を算定し、収入が平均賃金以下の場合には平均賃金を基礎として休業損害を算定することが一般的とされます(名古屋地判平成3年8月30日交民24巻4号1001頁)。
収入に平均賃金を足した金額を基礎収入として算定する考え方もあり得るところですが、有職の場合も無職の場合も労働の総量に差を生じないという考え方のもと、上記の考え方が主流となっています。
家事代行業者の利用
事故によって家事ができないために家事代行業者を利用して費用を支出した場合には、必要性・相当性が認められる範囲で、費用を損害として請求できます。
もっとも、主婦休損と重ねて請求することはできませんので、家事代行業者に支出した費用と主婦休損のいずれか高い方を損害として請求することになります。
まとめ
専業主婦で収入が無い方でも休業損害は認められます。事故の相手の保険会社は、必ずしも主婦の休業損害を考慮して賠償額を提示してくるわけではありませんから、交通事故の被害に遭われた主婦の方は、しっかりと主婦休損を主張する必要があります。交通事故でお困りの方は一度弁護士にご相談ください。