車両の改造費用は損害として請求できるか?
〈質問〉改造車の改造費用は事故の相手に賠償請求できるか?
私は名古屋市内で飲食店を経営していますが、お店の宣伝のために特別に装飾等の改造を施した車で市内を走行していたところ、信号待ち中に追突事故に遭ってしまいました。私の車は大きく損傷し、修理業者によれば物理的に修復不能とのことでした。私は車の改造費用に1000万円ほどかけていましたが、車自体の価格は、中古市場で同一車種・年式・型・走行距離のもので100万円程度に過ぎません。事故の相手方に改造費用まで賠償してもらうことはできますか?
〈回答〉実際に要した改造費用を改造時から減価償却した金額について認められる。
車両が全損の場合、買替差額(車両時価相当額-事故車両の売却代金)を損害として事故の相手に請求でき、車両時価相当額は、原則「事故車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場で取得できる価格」です。そして、改造車の場合は、改造の内容に応じて、改造部分の減価状態を考慮して、課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法や定額法によって算定した金額を請求できると考えられます。
質問のケースでは、車自体の中古市場価格100万円に加えて、改造費用1000万円を改造時から減価償却して算定される金額を損害として相手に請求できます。
〈弁護士による解説〉
車両の損害
事故で損傷した車両が、いわゆる全損(※)となる場合、修理費用ではなく車の買替差額、すなわち事故時の車両時価相当額と事故車両の売却代金との差額が損害となります(実際には、全損の車に値が付くことは少ないため、計算から除外して車両時価相当額のみで損害を計算することが多いです)。
そして、車両時価相当額の算定方法は、「事故車両と同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得」するのに要する価格(最判昭和49年4月15日交民7巻2号275頁)によって定められます。
具体的には、レッドブック(自動車価格月報)やインターネットの中古車販売検索サイト等を資料として車両時価相当額を算定します。
※全損とは、物理的に修理が不能な場合や、経済的に修理が不能の場合(修理費用が車両時価額及び買替諸費用の合計額を上回る場合)、また車体の本質的構成部分に重大な損傷が生じた場合をいいます。
改造車の価格の算定方法
改造車は市場価格の把握が困難
それでは、全損となった改造車の損害はどのように算定されるのでしょうか?
改造車と全く同じ改造を施した車両が中古車市場に流通していることは想定しづらく、上記の車両時価相当額の算定方法による算定は困難です。
「特段の事情」がある場合にあたる
この点、前掲の判例(最判昭和49年4月15日)は、車両時価相当額の算定方法について、「原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得しうるに要する価格によって定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のない限り、許されないものというべきである」と判示しており、「特段の事情」がある場合には、減価償却の方法によって算定することを認めています。
全く同じ条件の改造車を中古市場で取得することは困難であることから、上記判例の「特段の事情」がある場合にあたるとして、改造費用についての損害を減価償却の方法によって算定することが認められると考えられます。
もっとも、改造の内容が道路運送車両法の定めに抵触する場合や、車両の効用を低下させるなど交換価値を増加させなかったり、むしろ低下させるような場合には、改造費用を考慮せずに車両自体の価格またはそこから減額することが相当と考えられます。
従って、改造車については、改造の内容に応じて、ベースとなる車自体の中古市場価格に加えて、改造費用を減価償却して算定した金額を改造車の損害として相手に請求できます。
裁判例(東京高判平成30年3月20日)
改造車の損害の算定について、改造費用を減価償却して算定する方法によることを認めた裁判例として、東京高判平成30年3月20日自保2035号164頁があります(最高裁(最判平成30年9月13日自保2035号161頁)も判断を支持。)。
事案
被害者の車両(事業用貨物自動車)が、全面改装された車両で、キャビン及びボディー部分がすべて再製作されており、ボディー部分の部品は型枠を作って一から製作されたもので、約13年にわたって合計約911万円の改造費用を費やした車両(ベース車両部分の価格は約86万円。)で、改造費用の算定方法などが争われました。
裁判所の判断
「いわゆる中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価格によって定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは、加害者又は被害者がこれによることに異議がない等特段の事情がない限り、許されないというべきである。
原告車のような改造車については、同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価格によって定めるのは困難であることから、上記特段の事情がある場合に該当するとして、その改造の内容に応じて、その価格の減価状態を考慮し、課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めるのが相当であり、このような算定方法について当事者双方共異議がないと認められる。そして、定率法・定額法を用いる場合の耐用年数及び償却率については、改造自体については、基本的には、耐用年数の適用等に関する取扱通達2-5-1(車両にとう載する機器)を用いて、車両と一括してその耐用年数を検討し、車両自体についての耐用年数は、減価償却資産の耐用年数に関する省令別表1「車両及び運搬具」を、その償却率は同省令別表第9を適用するのが相当である。」
「1審原告車に対する改造の内容は、別紙記載のとおりであるが、各部品の取付けやメッキ作業等の改造の成果については、その改造の終了時点から徐々に劣化が始まるのであるから、改造作業中の一定期間において1審原告車が運送業務に使用されていなかったとしても、各改造の終了時点から減価償却を行うべきである。また、仮に、キャビン及びボディーに関する改造を一連のものとして一体的に評価するなどして、関係する各改造ごとに、その最後の改造終了時点から減価償却を行うとしても、これによる1審原告車の改造部分の時価は、別紙記載のとおり255万5282円である。なお、別紙記載のグループ7のメッキガゼット10mm丸棒巻製作取付けは、ボディーの側面前部の下方に装飾を施すものにすぎない上、キャビン及びボディーに関する他の改造(別紙記載のグループ5)とは改造時期が1年以上も離れているから、両グループの各改造が相互に関係する改造であるということはできない。
以上によれば、1審原告車の時価額は、その改造部分について高めに評価したとしても255万5282円であり、これにベース車両部分の価格86万3000円を加えた341万8282円を超えないこととなる。」
以上のとおり、裁判所は、改造費用約911万円を減価償却して255万5282円を損害として算定し、ベース車両部分の価格と合計した金額を改造車両の損害として認定しており、改造車両の損害額を評価する方法を示した裁判例として参考になります。
まとめ
改造車両の中には、ベースとなる車両の価格を遥かに超える改造費用を費やしているものもあり、単にベースとなる車両の中古市場価格によったのでは損害額を適切に評価できません。費やした改造費用の支払明細などでその金額を立証できるのであれば、積極的に損害として主張していくべきでしょう。