交通事故コラム

ひき逃げの慰謝料は増額!相場や交渉の仕方

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〈質問〉ひき逃げは損害賠償額に影響するか

 先日、名古屋市内でひき逃げ事故に遭いました。相手は後日警察に出頭して刑事処分を受けましたが、事故現場から逃走した相手を許すことができません。ひき逃げがあったことは民事の損害賠償請求の金額に影響しないのでしょうか?

〈回答〉ひき逃げを理由に慰謝料の増額を認めた裁判例があります。

〈弁護士による解説〉

ひき逃げのニュース

 俳優の伊藤健太郎(23)さんが、過失運転致傷とひき逃げの疑いで10月29日に逮捕されたというニュースが世間を騒がせています。
 ニュースによれば、伊藤健太郎さんは同月28日午後5時45分ころ、車を運転して東京都渋谷区千駄ヶ谷の新国立競技場前でUターンしたところ、前方から来た男女2人が乗る250CCのバイクと衝突して、そのまま現場を走り去ったとのことです。被害者の方は男性が両腕打撲の軽傷、女性が左足骨折の重傷とのことで、伊藤健太郎さんは刑事責任は勿論、被害者の方の怪我について民事上の損害賠償責任を負うことになります。

ひき逃げの刑事責任

救護義務違反・・・死傷事故の場合「十年以下の懲役又は百万円以下の罰金」

 救護義務とは、人身事故や物損事故を起こした車両の運転手などに対して、負傷者の救護や道路上の危険を防止する措置をとることを求める義務(道路交通法72条1項前段)のことで、これに違反すると、死傷事故でない場合は「五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」、死傷事故の場合には「十年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が科されます(同117条)。
 救護義務は、原則、被害者の負傷の程度や運転者の故意過失に関わらず、事故を起こした運転手に課されることから、危険運転致死傷罪等が成立しない場合であっても、救護義務違反の罪は成立しえます。
 もっとも、運転手が事故を起こしたこと自体認識していない場合、救護義務違反の故意がなく、救護義務違反の罪は成立しません。

ひき逃げの民事責任・・・慰謝料の増額

 それでは、ひき逃げがあった場合、民事の損害賠償請求においては、どのような影響があるのでしょうか?
 民事の不法行為に基づく損害賠償責任制度は、加害者の不法行為によって被害者に生じた損害を金銭的に評価して、公平の見地から加害者にその金銭を支払わせることで損害を穴埋めする制度ですので、事故それ自体によって生じた損害の他に、ひき逃げそれ自体によって生じた損害があるといえる場合に、ひき逃げの民事上の責任を加害者が負うということになります。
 ひき逃げはそれ自体危険で許されざる行為ですが、ひき逃げによって被害者に損害が生じたと言えない限り、加害者に民事上の責任は発生しません。
 それでは、ひき逃げによって被害者に生じる損害とはどのようなものでしょうか?
 被害者としては、加害者が果たすべき救護義務を果たさずに現場から逃走するなどもってのほかであり、そのような誠意のない対応をされれば、さらに憤りを感じることは当然でしょう。
 事故それ自体による精神的苦痛に加えて、逃げられたことによる精神的苦痛も被害者の損害として金銭的に評価すべきであり、ひき逃げを理由に「慰謝料」が増額されると考えられます。
 増額の具体的な金額は事案によりますが、死亡事故においては100万~300万円の増額を認めた裁判例もあります。

裁判例

大阪地判平成10年1月27日交民31巻1号87頁

 被害者が30歳男性の死亡事故で、加害者が被害者を救護せず現場から逃走した事案。加害者の現場からの逃走が被害者に「いっそうの精神的苦痛を与えたことは明らか」であり、また加害者が「逃走することなく直ちに救助措置をとっていれば、死亡しなかった可能性も十分考えられる」として、判決時の慰謝料基準額から300万円増額した金額を認容。

東京地判平成13年8月29日交民34巻4号1122頁

 被害者が21歳男性の死亡事故で、加害者が被害者を救護せず、事故への関与も通報せずに現場から逃走した事案。加害者が被害者を「救助することも、本件事故への関与を自ら通報することもなかったこと、原告が息子の死亡の真相を知りたいと望み、関係者が努力した結果、同被告の存在が判明したこと」などを考慮して、判決時の慰謝料基準額から100万円増額した金額を認容。

まとめ

 ひき逃げはそれ自体刑事上極めて重い処罰を科される犯罪であり、民事上も被害者から損害賠償責任を問われる行為です。なにより恐ろしいのは、助かるかもしれない命が、加害者が現場から逃走することで助からないことがあるということです。冒頭のニュースを対岸の火事とせずに、今一度交通ルールの遵守を肝に銘じてハンドルを握りましょう。