駐車車両との事故
〈質問〉違法駐車している車に追突!止まっているから過失はゼロ?
夜間、街灯のない狭い道路を車で通行していたところ、前方に駐車されていた車に気付けず追突してしまいました。そこは駐停車禁止の標識がありましたが、相手の車が止まっていたことから、相手は私の過失が100%で自分には過失がないと主張しています。相手の過失を問うことはできないのでしょうか?
〈回答〉駐車中,停車中の車にも過失が認められる場合があります。
駐停車中の車であっても、事故現場の状況、駐停車車両側の事情、駐停車による交通の危険増加の程度、追突車両の義務違反の程度、追突の回避可能性の大きさ等、個別具体的な事情を総合的に考慮して、駐停車中の車に過失が認められる場合があります。
質問の事案では、駐停車禁止の場所に駐車されており、夜間で街灯もまばらで視認性が悪く、道路も狭いことから回避も相当程度困難と考えられますので、駐停車されていた車に10~30%程度の過失が認められるものと考えられます。
〈弁護士による解説〉
駐停車中の車両の過失
動いている車と止まっている車との間で事故が起こると、「動いている車が100%悪い」、「止まっている車には過失がない」、などと言われることがありますが、動いていない車であっても、その車に事故の一因があれば、過失は認められます。
「止まっている車には過失がない」と言われることがあるのは、車は止まっている状態では通常何ら危険を生じさせておらず、また一般的に事故の発生を回避できる可能性もないと考えられるからでしょう。
確かに、信号待ちをしている車に追突されたような場合、信号待ちをしている車には何ら事故発生の危険はなく、追突してくる車を回避できる可能性もないことから、信号待ちをしている車側に過失はないといえます。
しかし、例えば道路幅が狭い所で、道路左端に寄せずに車道をふさぐ形で駐車している車に後ろからきた車が追突した場合はどうでしょうか?
道路左端に寄せずに車道をふさぐ形で駐車された車は障害物に他ならず、その駐車の態様自体が事故発生の危険を有していますし、左端に寄せて駐車していれば事故は回避できた可能性があります。このように、駐停車している側に事故発生の危険があり、適切な行動をとっていれば事故発生を回避できたような場合には、車が止まっていても過失を問われて然るべきと考えられます。
従って、駐停車している車両も過失を問われることは十分ありえます。
駐停車中の車両と運行供用者責任
ところで、交通事故により受傷した被害者は、自賠法3条に基づき、車両の「運行供用者」に対して、その過失を立証することなく損害賠償請求できるところ、駐停車中の車は、止まっていることから、「運行」していないのではないか(「運行供用者」にあたらず過失の立証が必要なのではないか)との疑問があります。
この点、一時的な停車が「運行」にあたることは問題ありませんが、駐車の場合には、走行との時間的・場所的関連性、近接性、駐車目的等をふまえて、駐車前後の走行と一体として「運行」にあたるかどうかが判断されているようです。
例えば、翌朝走行するつもりで深夜に違法駐車して事故が起きた場合には、「運行」にあたると解されています。
過失相殺 基本過失割合は「追突車100:駐停車0」
駐停車中の車に追突した場合、駐停車中の車側に過失が認められる可能性があることは上に述べたとおりですが、追突した側の車の過失も当然問題となるところです。
車両を運転する者には、前方注視義務(道路交通法70条)や車間距離保持義務(同26条)が課されているところ、前方を注視して、適切な車間距離を保って運転していれば、通常追突事故は起こらないと考えられることから、駐停車中の車に追突した場合、追突した車の側の過失は極めて大きいものと考えられます。
従って、駐停車中の車への車の追突事故については、その基本の過失割合は「追突車100:駐停車0」と考えられます(別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂5版300頁)。
そして、以下の事情に応じて過失割合が増減されます。
修正要素 | 過失割合の増減 |
---|---|
降雨、濃霧、夜間で街灯がなく暗い所などの理由で視認不良の場合 | 追突車 -10 |
違法駐停車 | 追突車 -10 |
駐停車側の非常点滅灯の不灯火 | 追突車 -10 |
車道を大きく塞ぐ駐停車等の不適切な駐停車方法 | 追突車 -10~20 |
駐停車側の著しい過失又は重過失 | 追突車 -10~20 |
駐停車側の退避不能(故障などでやむを得ない駐停車の場合) | 追突車 +10 |
追突車側の速度違反 | 追突車 +10~20 |
追突車側の著しい過失又は重過失 | 追突車 +10~20 |
質問のケースでは、夜間で街灯のない暗い道を走行中の事故であることから追突車側の過失-10、また駐停車禁止の場所での駐停車であることから追突車側の過失-10、さらに、狭い道路に駐車していることから不適切な駐車方法として追突車側の過失-10(事案によっては-20まで評価される可能性もあるでしょう)、以上追突車側の過失が、基本過失割合100から合計-30されて、追突車側の過失70、駐停車側の過失30となるものと考えられます。
まとめ
駐停車中の車であっても、その駐車の態様などから過失が認められる可能性があります。駐停車中の車の交通事故でお困りの際は、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。