交通事故コラム

休車損害

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〈質問〉 休車損害はどのような場合に認められますか?遊休車がある場合は認められますか?

 先日、私が代表を務める運送会社の従業員が、会社の営業用貨物トラックで荷物を運送中事故に遭いました。トラックは車両後部が破損して修理に3週間ほどかかる予定です。そのトラックが稼働できない間受注を減らさざるを得ず、売り上げが減少しました。売り上げの減少分を損害として事故の相手に請求できますか?会社にトラックの空き(遊休車)がある場合はどうでしょうか?

〈回答〉売上減少分は休車損害として請求できます。遊休車がある場合、休車損害が認められない可能性があります。

 トラックの修理期間中に、そのトラックが稼働できないことによって、稼働していれば得られたであろう営業利益の損失は、「休車損害」として事故の相手方に請求できます。
 もっとも、会社に、他に代わりとなる車両(遊休車)があり、それを活用すべきであったと認められる場合には、休車損害が認められない可能性があります。

〈弁護士による解説〉

休車損害とは

 「休車損害」とは、交通事故によって、修理や買替のために営業用車両を稼働させることができない場合に、車両を稼働していれば得られたであろう営業利益の損失をいいます。

どのような場合に認められるのか

対象車両は営業用に限られる

 休車損害は、営業利益の損失を問題とするものですから、その車両を運行して利益を上げていたこと、すなわち営業用の車両であることが必要です。
 そのため、休車損害が問題となる車両は、タクシー、観光バス、営業用貨物トラックなどのいわゆる緑ナンバーの車両です。緑ナンバーの車両は、国の許認可の関係でレンタカーなどの代車の利用が困難であるため、休車損害が問題となるのです。
 なお、営業用の車両でなくとも、それがもっぱら営業目的に使用されており、代車の利用が困難である場合には、休車損害が認められると考えられます(さいたま地判・平成26年10月7日交民47巻5号1262頁)。

利用可能な遊休車が存在しないこと

 被害車両の他に、普段稼働していない車両(遊休車)がある場合、その車両を稼働させれば営業損害は発生しないと考えられることから、遊休車の存在が休車損害に与える影響が問題となります。
 不法行為に基づく損害賠償請求事件においては、損害の公平な分担の見地から、明文はありませんが、被害者側に「損害拡大防止義務」が課されていると考えられています。被害者が容易に損害の拡大を防止できたにも関わらず、それを怠って損害が拡大した場合には、拡大した分の損害を被害者が負担すべきという考え方です。
 この考えは遊休車においても妥当し、遊休車を容易に活用できたにも関わらずそれを怠った結果営業損害が生じた場合には、その損害は被害者が負担すべき(加害者の不法行為と営業損害との間に相当因果関係が認められない)ということになります。
 遊休車を活用すべきであったか否かの具体的な判断は、保有車両の稼働率、保有台数と運転手の数の関係、運転手の勤務体制、営業所の配置及び配車数、仕事の受注体制等の諸事情を総合考慮して行います。

〈裁判例〉
 大阪地判平成10年12月17日交民31巻6号1933頁
 遊休車が存在する場合でも、事故車両とほぼ同格の遊休車が多数存在し、代替することが容易である等の特段の事情がある場合を除いて、事故車両の所有者は遊休車を利用してやりくりすべき義務を負わないとしたうえで、同事案では事故車両と同格の車両を他に一台しか所有しておらず、その実働率が約76%であることに照らして、特段の事情は認められない(休車損害を認めた)とした裁判例。

算定方法

  (車両1日当たりの営業収入-変動経費)×休車日数

車両1日当たりの営業収入

 事故前の3か月ないし1年の売り上げ実績から算出されることが一般的です。

変動経費

 ガソリン代や有料道路通行料等の変動経費は、事故車両を運行しなかったことで支出を免れていることから、損益相殺の観点より、変動経費を営業収入から控除すべきと考えられます。これに対して、駐車場代や保険料などの固定経費は、支出を免れていないことから控除の対象に含まれません。

期間

 休車損害が認められる期間は、事故による破損の修理や買替えに要する相当な期間に限られます。営業用の車両は営業許可を受ける必要があるため、その許可を受けるための期間も相当な期間に含まれると考えられます。

まとめ

 休車損害は、その損害額をめぐって争いになることは勿論、遊休車の存在を加害者側が主張して争ってくることも少なくありません。営業用車両が関わる交通事故でお困りの際は、一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。