交通事故コラム

被害者側の過失

こども 飛び出し 被害者側の過失 交通事故

〈質問〉子どもが交通事故にあったとき親の過失は問われる?

 先日、4歳になった私の子どもを連れて公園に遊びに行ったところ、少し目を離したすきに子どもがボールを追いかけて道路に飛び出してしまい、自転車とぶつかって怪我をしてしまいました。交通事故では被害者に落ち度がある場合に過失相殺されて損害賠償額が減額されると聞きましたが、私が子どもをしっかり見れていなかったことも過失として評価されるのでしょうか?

〈回答〉両親の過失も被害者側の過失として過失相殺されることがあります。

 過失相殺の「過失」には、被害者本人の過失のみならず、被害者と特別な関係にある者の過失も含むと考えられています。これを、「被害者側の過失」と呼びます。
 4歳の子は未だ事理弁識能力がないことから、その子自身の過失は問題となりませんが、子の親権者である両親は、子が道路に飛び出さないように注意をする監護義務を負っていると考えられますので、その義務違反による過失を被害者側の過失として過失相殺されて、子の損害賠償額が減額される可能性があります。

〈弁護士による解説〉

過失相殺と事理弁識能力

 過失相殺とは、被害者に発生した損害について、被害者自身にも落ち度がある場合には、公平の見地から、被害者の損害賠償額を減額する制度です。
 もっとも、被害者が自ら物事の良い悪いを判断する能力(「事理弁識能力」といいます。)を持たない場合には、その落ち度を問題にすることは相当でないため、過失相殺の対象となりません。
 事理弁識能力は、一般的に小学生になる6歳程度の年齢から認められます。
 従って、質問の事例では、子どもが4歳であることから、事理弁識能力がないものと考えられ、子ども自身の過失は過失相殺の対象となりません。

被害者側の過失

 被害者である子に事理弁識能力がないとしても、その親に過失がある場合はどうでしょうか?
 子に生じた損害について、親に監督義務違反などの過失が認められる場合、加害者のみならず親にも子に対して不法行為に基づく損害賠償責任が生じると考えられます(加害者との共同不法行為となります)。そして、共同不法行為の被害者は各加害者にその損害の全額を賠償請求できることから、形式的に考えれば、子は親に対して請求せず、加害者に対して損害の全額を請求することができます。しかし、これは明らかに公平の理念に反するものです。また、子に対して全額賠償した加害者は、親に対してその責任割合に応じて求償請求することになりますが、これはいかにも迂遠でしょう。親と子は経済的一体関係にあるのが通常ですから、親に過失がある場合には、子の加害者に対する損害賠償請求に際して親の過失を子の過失と同視して、加害者の賠償額を減額する(これにより加害者から親への求償請求が不要となります)ことが合理的といえます。
 このように、加害者の被害者に対する損害賠償額を決めるにあたって、被害者と特別の関係にある者の過失を被害者の過失と同視する考え方を「被害者側の過失」理論といい、最高裁判所もこれを採用しています。

 最判昭和51年3月25日(民集30巻2号160頁)
「民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから、右被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。」

 最高裁判所の判例によれば、被害者と「身分上、生活関係上、一体をなすとみられる関係にある者」の過失を被害者側の過失として扱うことになります。

「被害者側」の範囲

 「身分上、生活上、一体をなすとみられる関係にある者」には、 夫婦(内縁関係も含む)、未成年の子と親(内縁関係にある者の未成年の子も含む)、同居して経済的に一体の関係にある兄弟姉妹などが該当すると考えられます。
 また、親族上の身分関係がなくても、支配指揮関係にある被用者の過失は被害者側の過失とされます。例えば、会社の社長が従業員に車を運転させて負傷した場合、運転した従業員の過失を被害者側の過失として過失相殺されます(東京地判昭和61年5月27日判時1204号115頁)。
 これに対して、保育園の保母は幼児との関係において被害者側に含まれません(最判昭和42年6月27日民集31巻6号1507頁)。

まとめ

 被害者側の過失は、どのような者が「被害者側」にあたるのかについて必ずしも明確でない部分があり、争点となることが少なくありません。過失が考慮されるか否かは損害賠償額に大きく影響しますので、被害者側の過失が問題となるケースでは弁護士にご相談されることをお勧めします。